14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 辛味のあるチキンウイングが運ばれてきた。

「んー、おいしいです」

「ビールが進むな」

 そう言っておいしそうにノンアルコールビールをゴクゴク喉に流す。

 動く喉仏を見てしまい、訳もなく鼓動が暴れ始め、視線をチキンウイングに落とした。

 意識をチキンウイングに向けお皿に取り分けようとしたが、フォークがツルッと滑り刺せない。

 何度か繰り返していると、大和さんが笑う。

「こういうのは手で食べるのがうまいんだ」

 指先をお手拭きで拭き、チキンウイングを手で掴んで口へ運ぶ。

「ひとりだったらやってます。御曹司なのに手づかみで食べるなんて意外です」

「紬希も手で食べてみれば?」

 返事の代わりにチキンウイングを手で取って、パクッと食べる。

 こうして手づかみで素の自分を男性の前で出すのは初めてだ。

 昨日はとんでもない条件を突きつける人で、義務的に付き合うしかないかとあきらめに近い気持ちだったけれど、今は楽しいとさえ思っている。

「なあ、俺の前だけでも自分の好きなように着飾ったり、素直な感情を出してみてはどうかな?」

「え……?」

「何があったか知らないが、本当の自分を隠しているんだろう?」

「……そんなことないです。ずっとこんな感じです」

 食べかけのチキンウイングをお皿に置いて、紙ナプキンで指先を拭き、グラスに手を伸ばす。

「まあいいや。そのうち自分の殻から出させてみせるよ」

 自信に満ちた物言いにあっけに取られるが、私の中で少し何かが変わったみたいで言い返せなかった。

 大和さんは胸ポケットから黒縁眼鏡を出して、私の目の前に置いた。

 眼鏡を手にしてかける。
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