14年分の想いで、極上一途な御曹司は私を囲い愛でる
 あの頃、紬希は屈託なく〝大和〟と呼んだ。

 まだ俺があのときの大和と同一人物だとは考えていないみたいだった。

『おそらく義父の秘書がどこかで見ている。俺のことは大和と呼んで』

 義父の秘書がどこかで見ている……なんてことはない。
 それは紬希を連れ出す口実だった。

 休憩をとっているところで、話の信憑性を高めるために、たぶん乗り物に楽しんでいる家族を待っているであろう新聞を広げてひとりで座っている男性を、義父の秘書だと仕立て上げた。

 紬希は信用したみたいだった。

 それからは童心に返ったように、遊園地を楽しむ。水しぶきがかかるジェットコースターでは彼女の眼鏡を外すことに成功した。

 眺めの前髪が顔立ちを邪魔をするが、やはり彼女は綺麗だ。

 黒縁眼鏡は返さなかった。実のところ、彼女がどんな格好をしていても気にならなかった。

 しかし、なぜ自分を綺麗に見せないようにしている理由が知りたかった。

 思いのほかジェットコースターの水しぶきは俺たちを濡らし、敷地内にあるショッピングモールで、服を買って着替えることにした。

 濡れているせいでエアコンの入った店内は冷えており、急いで量販店で服を探す。

 彼女自身が選んだのは黒の半袖のワンピース。

 おそらく今の様子では、紬希のワードローブには同じようなダーク系の服が並んでいると推測する。
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