【コミカライズ決定】転生もふもふ令嬢のまったり領地改革記 ークールなお義兄様とあまあまスローライフを楽しんでいますー
12.この男はなんだ
「うわ!」
剣を突きつけられたバルトルが私の手を離し、のけぞる。
私は背中に殺気を感じ、恐る恐る振り返る。
すると、そこには無表情のまま、バルトルに剣を突きつけるリアムがいた。
うそっ! お兄様!? なんで? いくら、王の密命を受ける一族だとしても、ライネケ様の耳でも、気配がわからないないなんてことある!?
私は驚き、言葉も出ない。
「私の妹に手を出すな」
リアムはそう言うと、バルトルの喉元に剣の切っ先を押しつけた。
白い喉元に切っ先があたり、今にも切れてしまいそうだ。
「お兄様! やめて!! そんなんじゃないよ」
私は振り向き、リアムの腰にすがりついた。
「ならなんだ」
「私が筋肉を珍しがったから、見せてくれただけなの!」
「筋肉が珍しい? だったら、私の筋肉をいくらでも触れば良い。私のほうがすごい」
は? この緊迫の状況でお兄様はなにを言っているの??
リアムが真面目な顔をしてそう言って、私は一瞬ポカンとする。
すぐに我に返り、ブンブンと頭を振る。
「とりあえず、剣をおろして? お兄様の筋肉はあとでじっくり見せてもらいますから」
答えてから、少し変態臭がするなと感じつつ、気がつかないふりをする。
すると、リアムは満足げに頷くと、剣をおろした。
バルトルはビックリしたまま硬直している。
「それで、この男はなんだ」
リアムは攻撃的な口調で、バルトルを睨んだ。
相手が平民だからだろうか。言葉が乱暴になっている。
私は、リアムに足輪をわたし、これまでの経緯を説明した。
リアムはそれを聞き、小さくため息をついた。
「ルネ、こういう危険なことはひとりでしないで。心配するよ」
「……はい」
「これからは必ず、私に相談すること」
「はい。ごめんなさい」
「でも、ルネの優しさは良いところだね」
お兄様は私を抱き上げ、ヨシヨシと頭を撫でた。
私はリアムに誉められて、嬉しくなりニッコリと微笑む。
思わず尻尾がリアムにギュッと巻き付いた。
「っう」
リアムが小さく呟きよろめく。心なしか頬まで赤い。
「あ、お兄様ごめんなさい。苦しかったですか?」
「いや、苦しくない。そのままで」
「でも、」
ヘニョンと耳を倒して尋ねると、リアムはさらに頬を赤くして答えた。
「そのままのほうが安定するだろう?」
やっぱり、苦しそうなんだけど……。でも、お兄様がそういうなら良いのよね。
あまりは食い下がっても良くないと思い、私は口を閉じた。
「俺はなにを見せられてるんだ……?」
バルトルが呟くと、リアムは彼をジッと見つめた。
バルトルは気まずそうに目を泳がせる。
「あの、俺、お前に迷惑かける気ないし、これだけもらったらすぐ出てくし……。だから見逃してください!」
バルトルはガバリと頭を下げた。
「黄金の瞳……」
リアムは小さく呟くと、大きくため息をついた。
「あなたはお母様から、お父様についてなにも聞いていないのですか?」
私は突然丁寧な口調になったリアムを不審に思う。
ルナール侯爵家は、古くから王の密命を受ける一族だ。リアムにはなにか心当たりがあるのだろう。
バルトルは眉間に皺を寄せ、リアムを見た。
「俺が修道院に着く前に殺されそうになったのは、ソイツのせいなのか?」
バルトルは固い声で答えた。
リアムはマジマジとバルトルを見た。なにか見定めるかのような視線に、バルトルは目を逸らさずに対峙した。
「あなたは私の家門で保護する必要がありそうです」
「……え?」
バルトルが不思議そうにリアムを見つめた。
「あなたは、修道院に着く前に死んだことにします」
リアムはそう言うと、バルトルが嵌めていた足輪を、地面に落とし踏みつける。
「その足輪の中心に、転がっている木の実を埋めてください」
バルトルは、助けを求めるように私を見た。
「大丈夫だよ! お兄様は優しくて賢いの。きっと、悪いことにはならないわ!」
私が答えると、リアムは嬉しそうに微笑んだ。
「……え、そんなふうに笑うんだ……?」
「早くしてください」
呆気にとられたバルトルに、リアムは冷たく言う。
バルトルは慌ててリアムの指示に従った。
足輪の中に木の実を置く。するとすぐに芽が生え、伸び出した。
不思議……。魔法なのかな?
私は思わず凝視した。
「ではいきましょう」
リアムは私を抱いたまま、屋敷へと向かった。
そうして、私を玄関におろすと、バルトルを連れて侯爵のもとへ行ってしまった。
少し淋しいな……。
私は思いながらも、しかたがないと思う。私はルナールの血筋ではない。ルナール家が王の密命を受けていたことも、断罪されて初めて知ったのだ。
きっと、私には話せないことがあるのだ。知らないほうが良いことも。
そして、翌日からバルトルは、ルナールの遠縁の子として、屋敷の中に住むことになった。
髪染めで髪の色をオレンジに染めたバルトルは、バルと呼ばれるようになった。
「内緒なんだけどさ」
バルは私のキツネ耳にそっと唇を近づけた。
「俺のとうさん、国王様なんだって」
「っ!?」
私は驚きのあまり声が出そうになり、慌てて両手で口を押さえた。
ってことは、前世で革命軍のリーダーだった義足の王子ってこと!?
そうか、前世では違う人に助けられ、足を切断するしかなかったんだ。
えっと、待って? これってどういうこと? 革命はもう起こらないの?
無知な私にはよくわからない。
動揺している私に気がつかず、バルは続ける。
「で、王妃様が俺の命を狙ってるから、修道院に保護される予定だったんだって。でも、保護される直前に、王妃様の配下に見つかっちゃったらしい」
「……それでお母さんが……」
王妃の配下に見つかって、バルのお母さんは殺されたのだろう。そして、護送中の馬車も襲われたのだ。
「で、今のままじゃ危険だからって、一旦俺は死んだことにして、侯爵が匿ってくれるんだって」
バルの説明を聞き、私は納得する。
きっと、お兄様はバルの存在を聞いていたのだ。王妃の悪意に気がつき、機転を利かせ、保護することにしたのだろう。
バルはそこまで話して、耳から口元を離した。
そして、私を正面から見つめる。
「あのさ、俺、ルネに言われて思ったんだ」
「?」
私は小首をかしげる。
「俺のかあさんは『自分の命を引き換えに、あなたに生きてほしかった』って言っただろ? だからさ、俺、天国から見てる母さんが、助けてよかったって安心できるように生きなきゃって」
バルの黄金の瞳はキラキラと輝いていた。
「そうだね」
「いっぱい勉強して、いっぱい鍛錬して、……それで、その……」
バルが言いよどむ。
「?」
私は不思議に思ってバルを見つめた。
「あの、その、大人になったら……ほら……」
「ん?」
「約束……しただろ? 俺」
「約束?」
「体で恩を返すって!!」
バルが大声で叫んだ瞬間、私はひょいと宙に浮かんだ。
ビックリして振り返ると、お兄様が私を抱えている。
「お兄様!」
「だれが、体で恩を返すのですか?」
リアムは宵闇色の瞳で、バルを見おろしていた。
バルはブルッと震え上がる。
「あのとき約束したんです! ルナール領で困ったことがあったら力仕事で恩返ししてね、って」
私が答えると、リアムはニコリと笑ってキツネ耳に頬を擦りつけた。
「そうか、そういう意味だったんだね。ルネは良い約束をしたね。バルには大きくなったら、しっかり働いてもらおうね」
「お兄様ぁ、くすぐったぁい」
私がキャッキャと喜ぶと、バルはケッと悪態をつく。
「なんだよ……、『誰にも愛されない』って嘘じゃん。思いっきり愛されてるじゃん」
リアムは、フンと鼻を鳴らしてバルを見た。
「……と言うわけですので、バル。余計なことは考えないように」
リアムが言って、私は小首をかしげた。
「余計なこと……?」
「ルネは気にしなくて良いんだよ」
リアムはそう微笑むと、もう一度私に頬を擦り付けた。
剣を突きつけられたバルトルが私の手を離し、のけぞる。
私は背中に殺気を感じ、恐る恐る振り返る。
すると、そこには無表情のまま、バルトルに剣を突きつけるリアムがいた。
うそっ! お兄様!? なんで? いくら、王の密命を受ける一族だとしても、ライネケ様の耳でも、気配がわからないないなんてことある!?
私は驚き、言葉も出ない。
「私の妹に手を出すな」
リアムはそう言うと、バルトルの喉元に剣の切っ先を押しつけた。
白い喉元に切っ先があたり、今にも切れてしまいそうだ。
「お兄様! やめて!! そんなんじゃないよ」
私は振り向き、リアムの腰にすがりついた。
「ならなんだ」
「私が筋肉を珍しがったから、見せてくれただけなの!」
「筋肉が珍しい? だったら、私の筋肉をいくらでも触れば良い。私のほうがすごい」
は? この緊迫の状況でお兄様はなにを言っているの??
リアムが真面目な顔をしてそう言って、私は一瞬ポカンとする。
すぐに我に返り、ブンブンと頭を振る。
「とりあえず、剣をおろして? お兄様の筋肉はあとでじっくり見せてもらいますから」
答えてから、少し変態臭がするなと感じつつ、気がつかないふりをする。
すると、リアムは満足げに頷くと、剣をおろした。
バルトルはビックリしたまま硬直している。
「それで、この男はなんだ」
リアムは攻撃的な口調で、バルトルを睨んだ。
相手が平民だからだろうか。言葉が乱暴になっている。
私は、リアムに足輪をわたし、これまでの経緯を説明した。
リアムはそれを聞き、小さくため息をついた。
「ルネ、こういう危険なことはひとりでしないで。心配するよ」
「……はい」
「これからは必ず、私に相談すること」
「はい。ごめんなさい」
「でも、ルネの優しさは良いところだね」
お兄様は私を抱き上げ、ヨシヨシと頭を撫でた。
私はリアムに誉められて、嬉しくなりニッコリと微笑む。
思わず尻尾がリアムにギュッと巻き付いた。
「っう」
リアムが小さく呟きよろめく。心なしか頬まで赤い。
「あ、お兄様ごめんなさい。苦しかったですか?」
「いや、苦しくない。そのままで」
「でも、」
ヘニョンと耳を倒して尋ねると、リアムはさらに頬を赤くして答えた。
「そのままのほうが安定するだろう?」
やっぱり、苦しそうなんだけど……。でも、お兄様がそういうなら良いのよね。
あまりは食い下がっても良くないと思い、私は口を閉じた。
「俺はなにを見せられてるんだ……?」
バルトルが呟くと、リアムは彼をジッと見つめた。
バルトルは気まずそうに目を泳がせる。
「あの、俺、お前に迷惑かける気ないし、これだけもらったらすぐ出てくし……。だから見逃してください!」
バルトルはガバリと頭を下げた。
「黄金の瞳……」
リアムは小さく呟くと、大きくため息をついた。
「あなたはお母様から、お父様についてなにも聞いていないのですか?」
私は突然丁寧な口調になったリアムを不審に思う。
ルナール侯爵家は、古くから王の密命を受ける一族だ。リアムにはなにか心当たりがあるのだろう。
バルトルは眉間に皺を寄せ、リアムを見た。
「俺が修道院に着く前に殺されそうになったのは、ソイツのせいなのか?」
バルトルは固い声で答えた。
リアムはマジマジとバルトルを見た。なにか見定めるかのような視線に、バルトルは目を逸らさずに対峙した。
「あなたは私の家門で保護する必要がありそうです」
「……え?」
バルトルが不思議そうにリアムを見つめた。
「あなたは、修道院に着く前に死んだことにします」
リアムはそう言うと、バルトルが嵌めていた足輪を、地面に落とし踏みつける。
「その足輪の中心に、転がっている木の実を埋めてください」
バルトルは、助けを求めるように私を見た。
「大丈夫だよ! お兄様は優しくて賢いの。きっと、悪いことにはならないわ!」
私が答えると、リアムは嬉しそうに微笑んだ。
「……え、そんなふうに笑うんだ……?」
「早くしてください」
呆気にとられたバルトルに、リアムは冷たく言う。
バルトルは慌ててリアムの指示に従った。
足輪の中に木の実を置く。するとすぐに芽が生え、伸び出した。
不思議……。魔法なのかな?
私は思わず凝視した。
「ではいきましょう」
リアムは私を抱いたまま、屋敷へと向かった。
そうして、私を玄関におろすと、バルトルを連れて侯爵のもとへ行ってしまった。
少し淋しいな……。
私は思いながらも、しかたがないと思う。私はルナールの血筋ではない。ルナール家が王の密命を受けていたことも、断罪されて初めて知ったのだ。
きっと、私には話せないことがあるのだ。知らないほうが良いことも。
そして、翌日からバルトルは、ルナールの遠縁の子として、屋敷の中に住むことになった。
髪染めで髪の色をオレンジに染めたバルトルは、バルと呼ばれるようになった。
「内緒なんだけどさ」
バルは私のキツネ耳にそっと唇を近づけた。
「俺のとうさん、国王様なんだって」
「っ!?」
私は驚きのあまり声が出そうになり、慌てて両手で口を押さえた。
ってことは、前世で革命軍のリーダーだった義足の王子ってこと!?
そうか、前世では違う人に助けられ、足を切断するしかなかったんだ。
えっと、待って? これってどういうこと? 革命はもう起こらないの?
無知な私にはよくわからない。
動揺している私に気がつかず、バルは続ける。
「で、王妃様が俺の命を狙ってるから、修道院に保護される予定だったんだって。でも、保護される直前に、王妃様の配下に見つかっちゃったらしい」
「……それでお母さんが……」
王妃の配下に見つかって、バルのお母さんは殺されたのだろう。そして、護送中の馬車も襲われたのだ。
「で、今のままじゃ危険だからって、一旦俺は死んだことにして、侯爵が匿ってくれるんだって」
バルの説明を聞き、私は納得する。
きっと、お兄様はバルの存在を聞いていたのだ。王妃の悪意に気がつき、機転を利かせ、保護することにしたのだろう。
バルはそこまで話して、耳から口元を離した。
そして、私を正面から見つめる。
「あのさ、俺、ルネに言われて思ったんだ」
「?」
私は小首をかしげる。
「俺のかあさんは『自分の命を引き換えに、あなたに生きてほしかった』って言っただろ? だからさ、俺、天国から見てる母さんが、助けてよかったって安心できるように生きなきゃって」
バルの黄金の瞳はキラキラと輝いていた。
「そうだね」
「いっぱい勉強して、いっぱい鍛錬して、……それで、その……」
バルが言いよどむ。
「?」
私は不思議に思ってバルを見つめた。
「あの、その、大人になったら……ほら……」
「ん?」
「約束……しただろ? 俺」
「約束?」
「体で恩を返すって!!」
バルが大声で叫んだ瞬間、私はひょいと宙に浮かんだ。
ビックリして振り返ると、お兄様が私を抱えている。
「お兄様!」
「だれが、体で恩を返すのですか?」
リアムは宵闇色の瞳で、バルを見おろしていた。
バルはブルッと震え上がる。
「あのとき約束したんです! ルナール領で困ったことがあったら力仕事で恩返ししてね、って」
私が答えると、リアムはニコリと笑ってキツネ耳に頬を擦りつけた。
「そうか、そういう意味だったんだね。ルネは良い約束をしたね。バルには大きくなったら、しっかり働いてもらおうね」
「お兄様ぁ、くすぐったぁい」
私がキャッキャと喜ぶと、バルはケッと悪態をつく。
「なんだよ……、『誰にも愛されない』って嘘じゃん。思いっきり愛されてるじゃん」
リアムは、フンと鼻を鳴らしてバルを見た。
「……と言うわけですので、バル。余計なことは考えないように」
リアムが言って、私は小首をかしげた。
「余計なこと……?」
「ルネは気にしなくて良いんだよ」
リアムはそう微笑むと、もう一度私に頬を擦り付けた。