【コミカライズ決定】転生もふもふ令嬢のまったり領地改革記 ークールなお義兄様とあまあまスローライフを楽しんでいますー
17.モンスター発生
そうこうして、次の初夏が巡ってきた。
私とバルは九歳、お兄様は十四歳になっていた。
私とバルはルナール城の側防塔から、双眼鏡を使いルナール軍とモンスターたちの戦いを眺めている。
今回のモンスター討伐はいつもより力が入っていた。
ルナール侯爵が陣頭指揮を執り、リアムも初陣を果たしたのだ。
「お兄様は初陣に当たって、家宝のエクリプスの剣を受け継いだんだって」
銀色に輝く剣身に、ダイアモンドのついた柄美しいレイピアだ。
「格好いいよな、エクリプスの剣。上手く使いこなせれば、精霊と契約していなくても魔法が使えるんだろ?」
「うん、精霊が作った魔剣って言われているみたいだね。強力な魔法が宿っているから、マナのコントロールができないと鞘さえ抜けないんだって」
「リアムはすごい……格好良いなぁ」
バルはキラキラした目で、戦いを見ている。
バルはあれから、リアムと一緒に武術も学問も習っているのだ。
なんでもそつなくこなすリアムを、本当の兄のように慕い、憧れているようだった。
「オレもあんなふうになれるかな」
脳天気なバルの横で、私はハラハラと見守っている。
「初陣なんてまだ早いよ……。アカデミーを卒業してからでも遅くないのに……」
「でも、それだけ新しい堤防を守りたいんだよ」
「そもそも、なんで、初夏になるとモンスターが下ってくるようになったのかしら……」
私は思う。
「不思議だよな。初夏に新種のモンスターが暴れるようになったのはここ五年くらいのことだって聞いた。今まではモンスターが川に現れることはあっても堤防までは壊れなかったって」
バルも不思議そうな顔をしている。
「新種のモンスターのせいで、対処がまだわからないのよね。ルナールには魔法を使える技師が少ないから、堤防を修復している途中で、モンスターが発生してしまう」
川を下ってくるモンスターが溢れ、堤防を壊し、領地を蹂躙するのだ。
「討伐軍を作っても、発生源がわからずに後手後手になってしまうって、リアムが悩んでた。発生源がわかれば、増える前に討伐できるのにって」
バルがルナール軍の戦いを見ながら、眉を顰める。
「あああっ! 逃げて! 逃げてー!! お兄様!!」
私は叫び声を上げた。
「堤防が崩れちゃうっ!」
ルナール侯爵の指揮の下、討伐軍が撤退していく。
間一髪のところで退避し、討伐軍は無事だった。
リアムの無事を確認し、私はホッとする。
同時に、ガッカリもする。
「モンスターの発生を見越して、川幅を広げたのに、間に合わなかったんだわ……。せっかくテオ先生の力を借りたのに。魔法陣だって組み込んで……」
テオが主導となって作り始めた新しい堤防が、モンスターによって壊されてしまったのだ。
「センチメンの畑も流されてしまった……」
ルナール侯爵が治水事業に多くの予算を回してくれたが、そもそもルナール領にはお金がない。
ヘンナの髪染めが首都で流行り、少しずつ豊かになりつつあるルナール領。
それでも、大規模治水工事を完成させるには、力が足りない。
私は、泥まみれになりながら戦うリアムを見て情けなくなる。
「私……見てるだけで、なんにもできない。ルナール家に恩返ししたいのに」
「……オレもだ」
悔しくて呟いた私に、バルも頷いた。
「オレ、どうしたら力になれるんだろう」
バルは呟き、ギュッと拳を握りしめた。
*****
私は、ライネケ様の神殿でため息をついた。
今回の氾濫で領地はまたも泥水に浸り、多くの畑が潰れてしまった。たくさんの家がなくなり、多くの孤児が生まれた。
そんな生活に困っている人々を、ライネケ様の神殿で保護している。
侯爵様とお兄様は領地の復興で忙しいので、私とバルでなにかできないかと考えたのだ。
今は侯爵夫人や、修道院の人たちも手伝ってくれている。
「それにしても、こんな芋が食べられるようになるなんて……」
葛の葉様から、ルナールの森で自生する不思議な芋の食べ方を教わったのだ。
「コンニャクだっけ? でも、味がいまいちなんだよな~」
バルはぼやく。
私とバルはそんな話をしながら、コンニャク芋の処理をしていた。
水を張ったたらいの中で、芋を擦りおろしているのだ。
手袋をして擦らないと、かゆくなるのだ。
手間はかかるが、不思議な食感の食べ物が出来上がる。
今まで食べられないと思っていたものが食料になり助かっているのだ。
「葛の葉様が教えてくれた醤油っていうソースと、味噌を仕込んでいるからそれに期待しましょう」
「葛の葉様は大豆ばっかり勧めてくるよな」
「備蓄庫にたくさん保存されてて良かったわ」
葛の葉様に教えてもらう食べ物は不思議なものばかりだ。
修道院の人たちは、葛の葉様から教えてもらった豆腐というものを作っている。
私は、貝殻を焼いた粉末を水に溶かし、よく練ったコンニャク芋に入れた。
「ここから一気にかき混ぜないと!」
私の声に、バルは慌ててかき混ぜていく。そして、分離したコンニャクを練り合わせていく。
「そろそろ良いかな。あとは少し待って茹でれば良いだけ!」
「よくこんな面倒な食べ方をするよな。葛の葉様がどこの精霊なのか知らないけど、そこの人たちはかわっているな」
「そうね、豆腐も味噌も醤油もそうとう面倒よね……」
「それに比べてダーキニー様のカレーは手早い」
ダーキニー様はカレーというスープを教えてくれたのだ。
薬倉庫にあった薬草の粉などをたっぷり使って作る香り高いスープだ。薬効成分も高く、体はぽかぽかに温まる。
味の薄い豆腐を入れても美味しく食べられるので人気だ。
「ライネケ様の教えてくれたカエルも、カレーなら美味しい」
「カエルやカタツムリを昔は食べてたなんて知らなかった」
キツネの精霊たちに、新しい食べ物を教えてもらいながら、なんとか生活を立て直している。
被災したばかりのころは、無気力だった人々も、やることができたことで活気が戻ってきた。
子供たちもカエルやカタツムリを捕まえたりと、できる仕事があることが嬉しいようだった。
私とバルはそんな人々を見ながら、少しだけホッとした。
私とバルは九歳、お兄様は十四歳になっていた。
私とバルはルナール城の側防塔から、双眼鏡を使いルナール軍とモンスターたちの戦いを眺めている。
今回のモンスター討伐はいつもより力が入っていた。
ルナール侯爵が陣頭指揮を執り、リアムも初陣を果たしたのだ。
「お兄様は初陣に当たって、家宝のエクリプスの剣を受け継いだんだって」
銀色に輝く剣身に、ダイアモンドのついた柄美しいレイピアだ。
「格好いいよな、エクリプスの剣。上手く使いこなせれば、精霊と契約していなくても魔法が使えるんだろ?」
「うん、精霊が作った魔剣って言われているみたいだね。強力な魔法が宿っているから、マナのコントロールができないと鞘さえ抜けないんだって」
「リアムはすごい……格好良いなぁ」
バルはキラキラした目で、戦いを見ている。
バルはあれから、リアムと一緒に武術も学問も習っているのだ。
なんでもそつなくこなすリアムを、本当の兄のように慕い、憧れているようだった。
「オレもあんなふうになれるかな」
脳天気なバルの横で、私はハラハラと見守っている。
「初陣なんてまだ早いよ……。アカデミーを卒業してからでも遅くないのに……」
「でも、それだけ新しい堤防を守りたいんだよ」
「そもそも、なんで、初夏になるとモンスターが下ってくるようになったのかしら……」
私は思う。
「不思議だよな。初夏に新種のモンスターが暴れるようになったのはここ五年くらいのことだって聞いた。今まではモンスターが川に現れることはあっても堤防までは壊れなかったって」
バルも不思議そうな顔をしている。
「新種のモンスターのせいで、対処がまだわからないのよね。ルナールには魔法を使える技師が少ないから、堤防を修復している途中で、モンスターが発生してしまう」
川を下ってくるモンスターが溢れ、堤防を壊し、領地を蹂躙するのだ。
「討伐軍を作っても、発生源がわからずに後手後手になってしまうって、リアムが悩んでた。発生源がわかれば、増える前に討伐できるのにって」
バルがルナール軍の戦いを見ながら、眉を顰める。
「あああっ! 逃げて! 逃げてー!! お兄様!!」
私は叫び声を上げた。
「堤防が崩れちゃうっ!」
ルナール侯爵の指揮の下、討伐軍が撤退していく。
間一髪のところで退避し、討伐軍は無事だった。
リアムの無事を確認し、私はホッとする。
同時に、ガッカリもする。
「モンスターの発生を見越して、川幅を広げたのに、間に合わなかったんだわ……。せっかくテオ先生の力を借りたのに。魔法陣だって組み込んで……」
テオが主導となって作り始めた新しい堤防が、モンスターによって壊されてしまったのだ。
「センチメンの畑も流されてしまった……」
ルナール侯爵が治水事業に多くの予算を回してくれたが、そもそもルナール領にはお金がない。
ヘンナの髪染めが首都で流行り、少しずつ豊かになりつつあるルナール領。
それでも、大規模治水工事を完成させるには、力が足りない。
私は、泥まみれになりながら戦うリアムを見て情けなくなる。
「私……見てるだけで、なんにもできない。ルナール家に恩返ししたいのに」
「……オレもだ」
悔しくて呟いた私に、バルも頷いた。
「オレ、どうしたら力になれるんだろう」
バルは呟き、ギュッと拳を握りしめた。
*****
私は、ライネケ様の神殿でため息をついた。
今回の氾濫で領地はまたも泥水に浸り、多くの畑が潰れてしまった。たくさんの家がなくなり、多くの孤児が生まれた。
そんな生活に困っている人々を、ライネケ様の神殿で保護している。
侯爵様とお兄様は領地の復興で忙しいので、私とバルでなにかできないかと考えたのだ。
今は侯爵夫人や、修道院の人たちも手伝ってくれている。
「それにしても、こんな芋が食べられるようになるなんて……」
葛の葉様から、ルナールの森で自生する不思議な芋の食べ方を教わったのだ。
「コンニャクだっけ? でも、味がいまいちなんだよな~」
バルはぼやく。
私とバルはそんな話をしながら、コンニャク芋の処理をしていた。
水を張ったたらいの中で、芋を擦りおろしているのだ。
手袋をして擦らないと、かゆくなるのだ。
手間はかかるが、不思議な食感の食べ物が出来上がる。
今まで食べられないと思っていたものが食料になり助かっているのだ。
「葛の葉様が教えてくれた醤油っていうソースと、味噌を仕込んでいるからそれに期待しましょう」
「葛の葉様は大豆ばっかり勧めてくるよな」
「備蓄庫にたくさん保存されてて良かったわ」
葛の葉様に教えてもらう食べ物は不思議なものばかりだ。
修道院の人たちは、葛の葉様から教えてもらった豆腐というものを作っている。
私は、貝殻を焼いた粉末を水に溶かし、よく練ったコンニャク芋に入れた。
「ここから一気にかき混ぜないと!」
私の声に、バルは慌ててかき混ぜていく。そして、分離したコンニャクを練り合わせていく。
「そろそろ良いかな。あとは少し待って茹でれば良いだけ!」
「よくこんな面倒な食べ方をするよな。葛の葉様がどこの精霊なのか知らないけど、そこの人たちはかわっているな」
「そうね、豆腐も味噌も醤油もそうとう面倒よね……」
「それに比べてダーキニー様のカレーは手早い」
ダーキニー様はカレーというスープを教えてくれたのだ。
薬倉庫にあった薬草の粉などをたっぷり使って作る香り高いスープだ。薬効成分も高く、体はぽかぽかに温まる。
味の薄い豆腐を入れても美味しく食べられるので人気だ。
「ライネケ様の教えてくれたカエルも、カレーなら美味しい」
「カエルやカタツムリを昔は食べてたなんて知らなかった」
キツネの精霊たちに、新しい食べ物を教えてもらいながら、なんとか生活を立て直している。
被災したばかりのころは、無気力だった人々も、やることができたことで活気が戻ってきた。
子供たちもカエルやカタツムリを捕まえたりと、できる仕事があることが嬉しいようだった。
私とバルはそんな人々を見ながら、少しだけホッとした。