貴方はきっと、性に囚われているだけ

弟の質問攻め

 家族が帰宅してくると、弟の双葉も学校から帰って来た。双葉には気づかれてないといいなあ……と思っていたが、部屋に引き摺りこまれ、やっぱり駄目だったかと諦めた。
「姉ちゃん、噂って本当か?」
「ごめん。その噂が具体的にわからないの……」
 正直に答えると、双葉ははあ、と深く溜息を吐いた。すぐに一葉に向き直り、じっと瞳を凝視される。
「一つ目。姉ちゃんと生徒会長がキスしたって本当?」
 一学年下の生徒にまで広がってしまっているのかと、他人事のように思ってしまう一葉。だが、ここは訂正しておかねば。
「抑制剤を飲めなかった私に、口移しで飲ませてくれたの。医療行為よ」
「でもしてるじゃんか!」
「そんなこと言われても……」
 噛みつくように食いつく双葉にたじたじの一葉だった。だが、一つ目というのはどう云うことだろうか? 疑問が浮かぶ。
「二つ目。姉ちゃんと生徒会長は運命の番なのか?」
「それは違うわ!」
 それだけは絶対に違うと、強く主張する。それには双葉も驚いたのか、目を瞬かせた。
「よかったあ……姉ちゃんと生徒会長が運命の番とかだったらどうしようかと思ったよ」
「それ、どういう意味よ」
「だって生徒会長、イギリス人のクォーターだぜ? それに親はスタイリストとモデル。生粋のαだもん。姉ちゃんと釣り合わないって」
 そ、そこまで言われると少し傷付くな……。一葉ははっきりと言われて少し傷付いたが、それ以上に知らなかった琉斗の素性を少しでも知れたことが、何故か嬉しかった。理由は自分でもわからないが。
「双葉。悪いけど噂の訂正、お願いね」
「オッケー。俺も皆に聞かれて困ってたから言いふらしとく。ヒートは無事?」
 心配してくれる弟に、「大丈夫よ」と笑顔を向ける。抑制剤を飲んだから、取り敢えずは明日も学校には行けるだろう。
 
「さあ、お母さんの手伝いして、早く晩御飯にしましょ」
「おう」
 立ちあがり、双葉に言い聞かして部屋を出る。明日からの学校生活、どうなるのか。一葉はそこまで深く考えていなかった。
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