貴方はきっと、性に囚われているだけ

お昼ご飯

 屋上に上がると、そこには三年生がたくさんいた。屋上は比較的三年生の教室が近いということもあり、どうしても三年生が独占している様な格好になってしまっている。屋上にいる二年生は一葉と花梨だけのようだった。少し肩身が狭い。おまけに視線も痛い。花梨は動じず、屋上の景色を楽しんでいた。
「やっぱ屋上は良いですね!」
「そうかい?」
「解放感が違いますもん。ね、一葉?」
 話を振られるとは思ってもいなかった一葉は、頷くことしか出来なかった。どうしてか二年生よりも三年生の方が向けられる視線が強い。威圧感もある気がしてならなかった。そんな一葉に、琉斗は肩を抱き寄せ歩き出した。自然と一葉も歩き出すことになる。
「海翔、お待たせ」
「おう」
 一人の青年の前にやってくると、そこに腰を下ろした琉斗。彼は一体誰なのだろうか?
「座って。自己紹介するよ」
「あ、はい」
 そっと腰を下ろし、向き直る。琉斗とは違ったタイプのかっこよさのある人だ。凛々しい目に端正のとれた顔立ち。隣に座る花梨は頬が赤くなっていた。
「こいつは海翔(かいと)。僕の親友さ。彼女が僕の運命の一葉さん。で、隣が親友の楠木さん」
 簡単に自己紹介をして貰い、お辞儀をする。先程の台詞にハッとして、声を荒げる。
「運命じゃないです!」
「彼女はそう言ってるけど、僕にとっては運命だ」
「そうか」
 淡々と頷き、海翔は購買部のパンに齧り付く。琉斗の親友ということは、彼もαなのだろうか――。
「海翔はβだよ。楠木さんは?」
「私もβですよ。あの、海翔さん」
 花梨の真剣な眼差しに、海翔は視線を向ける。花梨、どうしたのかしら……。
「一目惚れです! 付き合ってください!」
「え!?」
 まさかの発言に、つい声を上げてしまう。周りの生徒にも聞こえていたようで、視線が此方に集まる。
「……いいけど」
「よっしゃ! ありがとうございます!」
「ええ!?」
 まさかの展開に、またしても声を上げてしまう。そんな一葉達を、琉斗は肩を震わせながら見ていた。
「お前、恋人作らないんじゃなかったのか?」
「気が変わった。面白いし」
「ありがとうございます! やったー!」
 喜ぶ花梨と満足げに頷く海翔に、一葉は何も言えなかった。せめてお祝いの一言でも言えればいいのだが、琉斗の視線が痛くてそれ所じゃない。
「僕たちも付き合う?」
「結構です!」
 いそいそとお弁当を広げ、箸を取り出す。よく見ると、三人ともお弁当は買ったものだった。花梨と琉斗はコンビニ弁当、海翔は購買部のパン。みんなもっとバランスよく食べるべきだ。
「あの」
「ん? なんだい」
「これ、少しですけど……」
 自分のお弁当箱の蓋に海翔の分のおかずを、花梨と琉斗の分はコンビニ弁当の蓋に取り分けて差し出す。何故か琉斗は目を丸くしていた。
「みんなバランスよく食べなきゃですし……少しですけど、どうぞ」
「一葉、ありがと!」
「……ども」
 花梨に海翔と礼を言われ、顔が綻ぶ。琉斗というと、目を丸くしたままおかずを眺めていた。
「あの、立花先輩?」
 どうかしただろうか? そう思った瞬間、急に抱き締められた。
「きゃあっ」
 思わず叫んでしまったが、仕方ないと思って欲しい。急に抱き着かれ、頬が紅潮していく。
「やば、嬉しすぎ……」
 ぼそぼそと呟く声が、腰にきてしまう。耳元で「ありがとう」と言われ、腰が抜けかけた。そっと離れていく温もりが恋しいなんて思ってしまうあたり、少しやばいかもしれない。
「これ、食べられないよ……」
「なら俺が食うが」
「駄目に決まってるだろ!」
 先輩二人の会話を聞きながら、花梨と二人、つい笑みが零れてしまった。
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