ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 本城と署の裏口から入ると、喫煙所を隔てる倉庫の奥に隠れるように須藤さんがいた。出頭場所は五階の刑事課だが、ここで話を終わらせても良いかと思い本城を先に行かせた。

 須藤さんに近づくと、須藤さんは電話をしていた。それに気づいた時、私は須藤さんに近づき過ぎていた。相手の声が漏れ聞こえた。

 ――女だ。須藤さんは照れている。

 須藤さんはむーちゃんと同期で今年三十九歳だ。管理職で離婚歴がある。長く独身で恋人はいないようだが、おそらく電話の相手は恋人だろう。付き合い始めて間もないのだろうか。

 電話を終えた須藤さんは倉庫の奥から出て来たが、私がいる事に動揺した。

 ――これはチャンスだな。

「おはようございます」
「……おはよう」

 岡島も本城も、須藤さんはそこそこのキレっぷりだから覚悟するようにと言っていたが、須藤さんのこの動揺を上手く使えば私は優位に立てるかも知れない。
 須藤さんは私の目を探るが、諦めたようだ。

「電話、聞こえてた?」
「お電話をされていたんですか?」
「……外、行こうか」

 パパ活の話ならば刑事課の課員の前で話せば良い。
 私が原因だとして謝罪すれば、そのパフォーマンスを以てパパ活疑惑が晴れる。その為に私はわざわざ休みなのに来たのだ。だが須藤さんは署から出て裏手にある公園で話そうと言う。

 ――女の存在を隠したいのか。

 言われなくても私は秘密を漏らさないが、信用されていないのかも知れない。

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