ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 三年前だったか、岡島の件を先輩の松永さんに話したら「バカなの?」と呆れられた。だが松永さんは聞き捨てならない言葉を言った。「いくらなら出せる?」と。
 松永さんの人脈を考えれば岡島の抹殺など簡単であろう。だが松永さんも警察官だ。私は「バカなんですか?」と返しておいた。私は合法な抹殺方法を知りたいのだ。

 岡島は私が電話に出ないと分かっているのに電話をしてくる。留守電は聞かずに消してるし、ショートメールも無視している。もちろんメッセージアプリのアカウントも教えていない。岡島に教えたらスタンプを連投してくるだろうから私は絶対に教えない。何度でも言うが、絶対に教えない。

 カウンターに置かれたスマートフォンはしばらく鳴っていたが、やがて静かになった。諦めたようだ。
 私は再びケトルベルを持って振り回す。
 ケトルベルとは取手の付いた鉄アレイの事なのだが、重さも大きさも様々で、それを持ち上げて上下左右に動かしながら筋トレをするのだ。

 一度、手元が滑って落としてしまい、新築のマンションのフローリングに凹みが出来てしまった時はさすがに焦った。凹んだその場所は落としたケトルベルよりも大きいケトルベルを置いて隠している。

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