ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 伊都子さんはレジャーシートを広げ、準備をしている。
 私たちはもう一周してから伊都子さんの元へ行こうと決めた。

「加藤さん、勝負して下さい」
「ん? 何の勝負?」

 横にいる葉梨を見上げると、噴き出す汗をリストバンドで拭いながら、私を見て、微笑んだ。

「加藤さんが勝ったら、海老とミートボールを全部食べて良いです」

 ――負けたら食べられないのか。何だその勝負は。

「葉梨が勝ったら?」

 私の問いに微笑む葉梨だが、私を見るその目に、私はなぜだか目を伏せてしまった。

「加藤さん。俺が勝ったら、誕生日にデートして下さい」

 ――葉梨は私を諦めていなかったのか。

 私は葉梨に勝てる。自信はある。だから私次第だ。
 葉梨がくれた白い薔薇の意味の解釈は、私に委ねられているのだ。
 今ここで、私は答えを求められている。

「時計台の下までです。勝負して下さい」

 そう言って葉梨は全力で走り出した。
 伊都子さんの近くにある時計台までは約八百メートルだ。私は勝てる。

 追いかける私は、葉梨の背中が手の届くところまで来た。

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