ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 海老と自分。
 ミートボールと自分。

 葉梨は自分と天秤にかけるものがそれで良いのだろうかと思いながら、私は葉梨をぶっちぎった。

 だいたい葉梨は自分の誕生日に休みが取れると、私も時間が取れると本気で思っているのか。
 新しい捜査員のメンバーはどう考えても人が足りない。飯倉はホストクラブで勤務だし、野川はポンコツだ。頭数が足りていない。

 岡島と葉梨を、どちらも入れれば良いのに須藤さんは一人だと言う。
 休みが無い。絶対に、休みが取れない。それだけは確実だ。

 背後から葉梨の息遣いが聞こえる。
 だが葉梨はおそらくトレーニングしたのだろう。
 フォームが綺麗だ。追い抜かれるかも知れない。

 時計台まであと三百メートル。

 ――海老か葉梨か。ミートボールか葉梨か。

 その時、強い風が吹いた。
 体がよろけるほどの、風。

 十時方向にいる伊都子さんは、飛ばされた風呂敷を追いかけた。

 葉梨は私を追い抜いた。
 だが葉梨は伊都子さんを気にしている。

 時計台まであと二百メートル。

 私は葉梨の背中を捉えた。追い抜ける。葉梨は全力だが、私はまだ余力がある。

 ――海老、ミートボール、葉梨。どちらも欲しい。

 そう思った時、葉梨がルートから外れた。
 葉梨の先には、すっ転んだ伊都子さんの姿があった。
 マズい、伊都子さんの一大事だ。

 私も後を追った。
 だが葉梨は私を置いてどんどん遠ざかる。追いつけない。速い。
 伊都子さんの一大事に駆けつける将由坊っちゃまは私の事など完全に忘れている。
 でも、それでこそ葉梨だと思う。
 誰の色にも染まっていない葉梨は、そのままでいれば良いのだ。

 ――あなたしかいない。あなたの色に染まりたい。
 
 胸に広がるあたたかな温もりを感じながら、私は葉梨の広くて大きな背中を、追いかけた。





 ― 終 ―



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