ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 彼は私が警察官である事はもちろん知っているから、仕事に関する話は絶対にしない。店内の客、そして他のスタッフが聞いているのだ。そういう点でも、私は理志さんがお店を変えてもずっとお世話になっている。

「えっと、今日はセットですけど……」

 理志さんが問いたいのは、この後は『運動量が多いのか』という事だ。
 走る事を想定した場合、髪型が崩れないようにしなければならない。だがそれを想定していないのなら理志さんは別のヘアアレンジを提示してくれる。

「お任せします」

 運動量は多くないと言うより、プライベートだから何でもいいと言う意味だ。
 今日の私は襟ぐりにパールのビジューが付いた白いアンサンブルとロイヤルブルーのフレアースカート、靴は三センチのパンプスだ。理志さんにその服に似合った髪型にしてもらう事になった。だが岡島の好みに合わせないとならないなと思い、注文する事にした。

「あの、すみません、やっぱり、可愛い、清楚系でお願いします」
「おおっ!? 珍しい、指定があるなんて」
「ふふっ……」

 ほくそ笑む私の顔を鏡越しに見た理志さんに二度見されたが、私は笑いが止まらない。
 清楚系詐欺女にいつも引っかかる岡島を抹殺するチャンスがついにやって来たのだ。チンピラめ、待ってろよ――。

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