ブランカ/Blanca―30代女性警察官の日常コメディ
 午後七時四十五分

 岡島との待ち合わせは八時だが、早く着いてしまった。それに岡島は仕事を切り上げてやって来ると言っていたから、遅くなる事も考えられる。

 平日の駅は混雑している。私は自販機の脇で改札口を見ながら、岡島に電話を掛けた時の事を思い出していた。
 岡島は私に何の疑いも持たなかった。だがさすがに気づいているだろう。そうでなければただのバカだ。

 ――あ、あれかな。

 岡島らしき男が視界の端にいた。こちらへやって来るが、いつものチンピラじゃない事に気づいた。
 普通のスーツだが、いつもと違うスーツだ。ネイビーでピンストライプの細身スーツ。それに髪型も変わっている。いつもはオールバックで昭和のチンピラだが、今日は――。

「お待たせ、奈緒ちゃん」

 そう言って微笑む岡島は令和最新版のインテリヤクザ――。

「ごめんね、無理言って」
「良いんだよ。……奈緒ちゃん今日は可愛いね」
「ありがとう。直くんも、今日はカッコいいね」

 褒められた事なのか私が名をくん付けして言ったからなのか、はにかむ岡島はバカなのかなと思った。それに岡島が本気でカン違いしている事に愕然とした。

 ――なんで、そんなに、お洒落してるんだ。

 だが昭和のチンピラが令和最新版のインテリヤクザになるとは岡島もやれば出来る子なんだなと思った。

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