あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に
ふせんにはシンプルに『美味しかった、ありがとう』とだけ。

たったそれだけ、だったのだが⋯


「ほら、今日の」
「き、今日の⋯っ!?」

理解できない盛岡の奇行に愕然として目を見開く。

何故なら特別高価なお礼をした訳でも、目の前で泣いて喜びすがった訳でもなかったのに盛岡が再び私にお弁当を差し出してきたからだ。


「美味かったって書いてたから、また食いたいのかと思ったんだが?」
「は、はぁ?大人ならあれくらい誰だって書くでしょ⋯!?」
「あ?じゃああの言葉は社交辞令で俺の弁当なんて食えたものじゃなかったってことか?」
「そんなこと一言も言ってないわよ!」
「だったら食え、どーせ今日も弁当持ってきてないんだろ」

ズズイと差し出されるお弁当に既視感を覚える。

“これ、絶対引いてくれないパターンよね?”

それにゆで卵が爆発してからお弁当を持ってくるのを止めた事も、同じ部署内にいればバレるというもので。

物凄く気が重いものの、美味しかった記憶もチラつく私は永遠に差し出されたままのお弁当をため息交じりに受け取った。

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