あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に
“堂々としてるのか鈍感なのか⋯なんなのよ⋯”

私だけがやきもきしている現状から目を逸らすように、より一層仕事に燃えていた20代のあの頃。

40代になった今でこそなくなったが、当時の営業部には全員参加が必須の接待があって。


接待、なんて言うものの社内行事の一環で、ほとんどは同社の人達ばかりなのだが何社かの得意先も呼ばれている為気を抜けない。

また他の部署よりも外回りなどで社内にいる時間が少ないからこそ、同社内のお偉いさん方に媚と自分を売り込む数少ない機会でもあり当時の私も盛岡に勝ちたい一心でせっせと瓶ビール片手に色んな場所を回っていた。

そしてもちろんビールを注ぐという事は、私にも注がれるという事で⋯


「⋯⋯うっ、ぷ⋯」

“やば、お腹ちゃぽんちゃぽんなんだけど⋯”

食道を戻りかけるビールをなんとか堪え、トイレでメイクを直しながら体調を整える。

幸か不幸かアルコールをどれだけ取っても顔色が変わらない体質の私は、アルコール自体にもそれなりに強くお腹が水分ではち切れそうな事以外は特に不調もなかった。
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