あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に
「とりあえず送ってくから、家どこか教えてくれる?」

体を支えるようにし、歩き出しながらそう問いかける。
否、歩き出そうと、しながら。

「ねぇ聞いてる?とりあえずタクシー捕まえるから住所、ていうか歩いて⋯って、は?」

想像より重くなかったのは、彼がちゃんと自立して立っていたからだろう。
まるで弁慶みたいに。

「ね、寝てる⋯ですって⋯⋯!?」

“嘘でしょ!このタイミングで!?えっ、すまんって手間かけてすまん、じゃなくてまさか寝るわ、すまんって事!?あり得ない、あり得ないんですけど!!”


このまま起きるまで立ち尽くす可能性が頭を過り一気に青ざめる。

「い、嫌だ、それは嫌⋯っ!!私は家に帰りたいのよッ」


ひえぇ、と焦った私はすぐにさっきまでいた後輩に電話をかけて事情説明をした私は、後輩のお店へ戻るタクシー代も払い弁慶状態の盛岡をなんとか我が家に連れ込む⋯もとい押し込んだ。
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