あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に

4.思い出を温める

「あー⋯ほんとあり得ないわ⋯、お弁当の借り絶対これで完済でしょ⋯」

ぶつくさ文句を言いつつ、起きたらすぐ飲めるようにベッドサイドのテーブルにお水セットしお風呂に入る。

表向き何故か付き合っている事になっていたとは言え、一応は妙齢の男女。
本来ならば警戒すべきところだったのかもしれないがー⋯

「ま、それこそあり得ないか」

先ほどより少し顔色が戻った盛岡が私のベッドでぐーすか寝ているのを眺めつつそう呟いた。


何故か最近世話をやかれていたものの、私達の間にはこれっぽっちの熱なんてなくて。

“お弁当箱は食べたらその場で洗って退社前に返してるし、それ以外で出かけるどころか仕事終わりに飲みすら行ったことないし”

メイクを落としお風呂でサッパリした私は、自室であることもプラスし完全に気を抜いていた。


「ネクタイくらいは外してやるか」

なんて何の気なしに盛岡の寝ているベッドへ腰掛け、彼のネクタイに手を伸ばす。

ポタリ、と私の髪から一滴の水が盛岡の頬に落ちて――


「――なに、してる?」
「え」

あ、と思ったときにはネクタイに伸ばしていた手をギュッと掴まれていて。

「ッ」
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