あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に
「あのさ、男を部屋に連れ込むってこーなってもおかしくないだろ」
「そ、んなこと、言われても⋯っ!」

連れ込んだのは間違いないが、だったら意識を手放す前に住所くらい言っておいて欲しい。
というかそもそも大人なんだからお酒の量だって調節して欲しかったし、もっと言えば付き合いだしたという噂を盛岡も否定してさえくれれば私が酔っ払った彼を押し付けられる事にはならなかったはずで⋯


「いい加減に⋯っ!」

苛立った私は文句を言おうと口を開いたが、その文句は盛岡の唇で塞がれ結局言葉にはならなくて。


「⋯んっ、んんんっ!」

突然の出来事に動揺した私が思わずガリッと盛岡の唇を噛んでしまい、じわりとした鉄の味がキスをした、という現実感を私に刻む。

「急に⋯っ」
「急?どこが」

少し血の滲んだ唇を舐めた盛岡はすぐに体重をかけるようにして私を押さえ込み、再びキスを降らせてくる。

“どこがって、全部急じゃない⋯っ!”

内心文句を言うがもちろんそれらが言葉として形になることはなく、私の口からは激しい口付けのせいで足りなくなった酸素を求めはふはふと荒い吐息が漏れるだけだった。

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