あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に

最終話.気持ちを温める

「⋯あれって、あいつはまだ足りなかったって事よねぇ」

まだ朧気にだが覚えているその必死な声色は、あれからもう10年以上経っているというのに今思い出しても少し可笑しくて。

“それにあいつ、私が起きるまで何故か半裸でベッドに座って待ってたのよねぇ⋯”

思わずくすくすと笑ってしまう。
寝ればいいのに、『許可を貰ってないのに添い寝なんて出来ん』なんて意味のわからない理論を発揮した彼は私が目覚める数時間をただ私の寝顔を眺めていたらしく⋯

“添い寝が許可制で、ヤるのは無理矢理とか本当に今考えてもわかんないわ”

絶対にヤる方の許可を取るべきだと思うもののー⋯

「ま、私も満更じゃなかった⋯か」

本当に嫌ならば『嫌だ』と、『触らないで』とハッキリ言っていただろう。
そして、私が本当に嫌がっていたならば絶対に止めていただろう彼を記憶から思い出す。

変に強引で、変なところ律儀で。


共に営業として走っていた私のライバルは、もういない。

ー⋯時々思う。
もしまだ彼がこの営業部にいたならば、私は営業部長になっていた?
< 29 / 33 >

この作品をシェア

pagetop