あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に
先日呼び出され言われた上司の言葉がふっと頭を過り、もしそうなったら私が異動するのかな、なんて考え彼の言葉に頷くのを躊躇ってー⋯


「結婚したら、俺が総務部へ行く」
「⋯え」

的確に迷ったポイントを見抜かれ、唖然とした。
どこか得意気な表情をした当時の大輔は。

「俺は仕事自体にこだわりはないからな。でも残業はほどほどにしろよ」
「まだ結婚する、なんて言ってないんだけど」
「責任」
「つ、付き合わない、とも言ってないけどっ」
「ははっ!」



いつもお昼に渡されていたお弁当は、今は朝机の上に用意されているようになって。

暫くは同じ営業部で働きながら、そして結婚してからは私が営業部、彼が総務部と部署こそ違うものの今でも一緒に働いていて。




「てゆーか、営業部は本当に残業しすぎだろ」
「総務部は定時よね」
「羨ましいか?」
「んー⋯」

営業の仕事は好きだし、やりがいもある。
譲ってくれた大輔に感謝もしてる。

けど、一番は。


「⋯帰ったら大輔のご飯があるから、営業部で良かったわ」
「ばーか」
「嬉しいくせに」

フンッと私の鞄を掴んでリビングに向かう大輔を追う。
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