あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に
「紙コップが変形して燃えたり漏れるかもしれないから普通のコップに移せって言って⋯ぅわ!」

引ったくるように盛岡の手から紙コップを奪い返した私はそのまま一気にぬるいコーヒーを飲み干し、ガコンとゴミ箱に叩きつけるように捨て、彼をギッと睨んでから給湯室を後にした。


“完全にやる気削がれたんだけど”

イライラしながらデスクに戻った私は、イマイチ集中出来ない仕事になんとか向き合いつつ作業を進め⋯


コト、と置かれた熱々のコーヒーに驚いた。

「え⋯」

ポカンとしつつ、コーヒーの香りを辿るように見上げた先にいたのはもちろんあの気に食わない同期の盛岡で。

「ほら、熱々のコーヒー飲みたかったんだろ。でも22時には切り上げろよ」
「あ⋯、え?え、えぇ⋯」

動揺しつつ、時間も指摘され時計を見ると21時を回ったところ。
そして私が時計を確認している間に盛岡はさっさと自分のデスクへ戻ってしまって。

“なによ⋯お礼、言いそびれたじゃない⋯”


元気に張り合っている時なら確実に『施しなんていらないわよ!』なんて文句を言っていたところなのだが、その日は疲れていたから。
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