あの頃言えなかったありがとうを、今なら君に
流石に目の前の惨状がある以上何も言い返せず、悔しいような情けないような気分になりながらただ項垂れていた。

そんな私を見て何を思ったのか、またわざとらしくため息を吐いた盛岡は突然くしゃ、と頭を撫でてきて。

「な⋯っ!?」
「ほら、雑巾取ってこい。とりあえず俺も手伝うから」
「え?で、でも⋯」
「は?俺一人に掃除させる気か?」
「えぇっ!?そうじゃなくてっ」
「だったらすぐに取ってこいって」
「~~ッ、わ、わかったわよっ!」

後始末くらい自分で出来ると言いたいところだが、キッチンペーパーで内部にこびりついた卵がサクサクと片付けられているのに慌て急いで雑巾を取りに走った。

“な、なによ、手伝ってとか言ってないのに⋯”

お弁当がダメになったのは悲しいが落ち込むほどの事ではなく、なのに何故か慰めるように撫でられた頭が少しくすぐったい。

“ほんと、いけ好かないやつ⋯”


そんな事すら悔しく思いつつ、指示されるがままレンジを拭き上げた私達。
そして片付けが終わったタイミングで盛岡が出してきたのはかなり大きなお弁当箱だった。
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