花を手向けるということ。
海岸通りのバスに乗り、ボーっとガラス越しの海を眺めていると、楽しそうにはしゃぐ四人家族がわたしの視線を捉え、思わず口をきゅっと結んだ。
――きっと、幸せで笑顔の絶えない家庭なんだろうな。
そんなことを考えていると、自分が置かれた環境の不公平さや、その状況をどうにも変えられない無力さが心の中を駆け巡る。
その家族から目を逸らし、背中を丸めた。
目的地に到着するアナウンスが流れ、渋々バスを降りると……
さっきの海岸とはうって変わって、自然豊かな田舎の畑道が視界一面に広がっていた。
畑特有の土の香りを感じながら、道なりに五分ほど歩くと、”その場所”にたどり着く。
場所の名前の書かれた木製の手作り看板までもう少し……
早足で歩き始めると、下駄の音がいっそう強く響き渡る。
それと同時に、思わず俯いてしまうような強い春風が吹いた。
「っ……!」
目の前をふわりと舞うチューリップ。花束から飛び出したのか、ヒラヒラと風に飛ばされて遠くの地面へパサりと落ちる。
そこへと視線を向けると、黒いスニーカーの足元に黄色いチューリップが二、三本落ちていた。
――誰……
見上げると、そこには一人の男性が立っていた。