花を手向けるということ。
その人はひどく冷たくて鋭い眼をしていた。
突然体の中心が冷やされるような感覚が、私の肩を震わせる。
他人を一切寄せ付けない、誰も信用しない。そんな拒絶すら感じるその視線は一度も交わることがなく、自身の足元へと向けられた。
右側を刈り上げたふんわりと柔らかな髪の毛は、春の空のように毛先にかけて青みを帯びている。
ジーパンのポケットに入っていた骨ばった手をゆっくりと出すと、そのまま地面に落ちたチューリップを優しく拾い上げ、遠慮がちに無言のまま差し出される。
その光景に見とれていた私は、慌てて男性の方へと駆け寄った。
お礼を言おうと見上げて口を開くが、言葉が出てこず息を呑んで俯くことしかできない。
依頼主や家族以外の男性と会話をするのは初めてで、なにを言葉にしていいのか分からない。
ただ、一言礼を述べるだけでいいのに、その一言が中々喉元から出てこない。
「ありがとう、ございます……」
蚊の鳴くような声で呟き、震える手でチューリップを受け取ると、この気まずい空気に耐えられなくなり小走りでその場を離れた。