花を手向けるということ。

「ここを立ち上げてからも、苦労ばかりの日々で……その度にお祖父さんから頂いたこの言葉を思い出して、どうにかやってきてるんだ」

 ぱら、ぱら、と一定のリズムでページが捲られていく。そこには祖父の丁寧な字で綴られた詩が並んでいた。

 祖父は、どんな言葉を手帳に込めたんだろう……そして、楢島さんに何が起きたんだろう。
 そんな、沢山の疑問を頭の中に浮かべながら、ページを捲る手元を視線で追った。


「あの……楢島さんは、どうして……この施設を立ち上げようと思ったんですか……?」


 ふと、自分の口から疑問が零れていたことに気付く。
 でも、もう遅かった。慌てて口元を抑えて勢いよく顔を上げ、楢島さんの表情を確認すると、なんとも言えない悲しげな表情を浮かべていた。

 ――こんなこと、言うつもりなかったのに。
 気付いたら、なぜかあんな疑問が喉元から飛び出していた。

 どうしよう、怒らせてしまった。そんな罪悪感が頭の中を駆け巡り、胸がキリキリと痛む。
 何をどう謝ればいいのか自分でも分からなくなり、口を開いては閉じて言葉を呑み込んだ。
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