女王様を愛したい
女王様
夏の学校の朝は、全てのことが憂鬱だ。
近年の茹だるような暑さ。
汗をだらだらにかいて、肌に張り付くシャツも。
廊下の生徒達の間をぬって、歩くことすらも。
「それでねーー」
世間話に夢中で教室の出入口を塞ぐ、女子グループだって、憂鬱だ。
私に気づいた1人が、話の止まらない彼女の肩を強く数回叩く。
「ちょ! じょ……」
言いかけて止めた台詞なら、予想がつく。
気まづそうに道を譲ってくれた彼女達を一瞥すると、ヒュッと息を吸う音が聞こえた。
ーー止めて。
「『女王様』って、ほんと嫌な感じだよね」
「ちょっと聞こえるよ」
「聞こえるように言ってるんじゃん」
他人の陰口。
言われ慣れてしまっているから、もううんざりだ。
でも、だからと言って、傷つかない訳じゃない。
表面上では涼しい顔をして、何も聞こえないフリをして居ても。
心は悲しくて、痛がっているのに、何も言い返せない自分が悔しい。
本当はさっきだって、道をあけてくれたから「ありがとう」と言いたかった。
それなのに、喉が強張って、それが出なかった。
せめてもと思い、自分自身では微笑んだつもりなのに、他人から見ると睨まれたと思われる。
もういつもの事なのだから、いい加減慣れてしまえば良いのに、それも全く出来そうにない。
自分の座席に着いても、陰口は聞こえてくる。
もう、うんざりなんだってば。
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