Magic
目の前にあったのは見慣れない天井だった。そして、自分が寝かされているベッドは驚くほど柔らかく、ベッドの近くにある大きな窓には見慣れない夜景が広がっている。知らない部屋だ。

「あたし、遠山さんのマジックを見に来ていて……」

途中から眠ってしまったことしか思い出せない。とりあえずベッドから立ち上がろうとしたのだが、手が後ろで固定されている。

「えっ、何?」

後ろを鏡で確認した琴葉は戸惑うことになる。琴葉の両手には、まるで罪人のように手錠がかけられて拘束されていた。

「何で?何で?」

手を動かしたものの、手錠は音を立てるだけで外れる気配はない。

「目が覚めた?あんまり強く引っ張ると手が擦れて怪我をするからやめた方がいいよ」

声をかけられ、琴葉は振り返る。そこに立っていたのは零だった。タキシードではなくラフな格好をしてゆっくりと近付いてくる。

「こ、来ないでください!」

琴葉は逃げようとしたものの、両手の自由を奪われた体、そして柔らかいベッドの上ではうまく逃げることができない。
< 9 / 11 >

この作品をシェア

pagetop