あなたが好きだと言いたかった。

1. 衝撃の転校生出現!

 「おーい、佐久間! 帰るぞ!」 「待てーーーー! 早過ぎるだろうが!」
「お前が遅すぎるんだよ 早く来い!」 「そんなこと言ったって、、、ああ、待ってよーーーー!」
ユニフォームを着たままの前原浩二と佐久間雄介が昇降口を駆け抜けていった。 「あいつらは変わんねえなあ。」
「川嶋君、それどういうこと?」 「小学生の頃からあいつらはこうだったんだ。」
「へえ、そうなんだ。」 「優紀は知らなかったっけ?」
「私、小学校は別だから。」 「んじゃあ、分かるわけねえなあ。 ははは、ごめんごめん。」
 放課後の昇降口、学生たちが下校していく中で一人だけグラウンドへ向かう生徒が、、、。
「あいつ、誰だ?」 「さあねえ。 新入生じゃないのか?」
「1年にあんなのは居ねえぞ。」 「何だって?」
2年生で一番情報通の業平光春が眉を顰めてその生徒を追い掛けているが、、、。
「聞いたこと無いなあ。 飛び入りか?」 「それにしちゃあ、かっこ良くないか?」
 グラウンドをよく見ると野球部の顧問 名志田先生がキャッチャーマスクをかぶっている。
「よし。 青山。 軽く投げて見ろ。」 「分かりました。」
ジャージ姿でボールを握っている姿はまるで星飛雄馬。 出来過ぎかと思うくらいに絵になるやつである。
ズバーン。 ミッドでボールを受ける音が響いている。 「よし。 スライダーだ!」
ズバーン。 またもやミッドが唸りを上げる。
「高校生にしては速いんじゃないか? 名志田先生は元プロだから取れるだろうけど、、、。」 「あれは130キロくらいだな。 速いぜ。」
レギュラーキャッチャーの吉岡勝は唇を噛み締めた。 「あんなんじゃあ取れねえよ。」
「馬鹿だなあ。 相手が誰でも受け止めるのがキャッチャーだろうが。」 「とは言うけどだなあ、、、あれは。」
「あなたのボールは取れませーーーーんってか? そんなんでキャッチャーが務まるかってんだい。」
川嶋はグラウンドでキャッチボールを続ける二人を追い掛けている。 「優紀、あいつを知ってるか?」
「さあ、見たこと無いわよ。」 「マネージャーのお前も知らないのか。」
 確かに見たことは無い。 でも名志田先生がボールを受けているってことは、いずれ野球部に入ってくるんだろうな。

 私が密かに疑問を抱いた次の日だった。 「野球部のレギュラーとマネージャーは部室に集まってくれ。」
名志田先生からの直々のお呼び出しが掛かった。 「他でもない。 新入生の紹介だ。」
「新入生?」 「そうだ。 まあ2年に転入したんだから転入生だな。」
名志田先生が隅っこでボールを握っていたスポーツ刈りの男の子を呼んだ。 「あ、、、。」
「そうだ。 昨日、投げ込みを見ていた人は気付いたかもしれんが、転入生の青山和幸君だ。 これからピッチャーは青山に任せたいと思う。」
「何で?」 「木村、、、お前は控えで十分だ。」 「しかし、、、。」
「青山君には140キロのストレートと、落差の大きなフォーク、横滑りをするスライダーが有る。 これは簡単には打てん。 この武器を生かしたいんだ。」
「でも俺は、、、。」 「もちろん、先発は考えとるよ。 後発で青山君が出れば相手側は打ち崩せんからなあ。」
名志田先生はそう言いながら青山に挨拶を勧めた。
 「この4月にここ齊灯冠高校に転入してきました。 青山です。 よろしくお願いします。」 彼の挨拶は簡単だった。
無駄が無いというのか、余計なことを喋らないというのか、あっさりした彼の性格を少しだけ見たような気がした。

 「優紀、お前 もしかして青山に行かれちゃったか?」 「そんなこと無いですよ。」
「でもお前、じーーーーーっとやつのことを見詰めてたぞ。」 「うそうそ。 さあ、帰りましょう。」
わざと速足で校門を駆け抜けてみせる。 グラウンドを振り返ると青山君が一人で走っていた。
木村君も高橋君も用事だとか何だとか言い訳して出てこなかったんだって。 有り得ないよね。
毎年毎年bクラスの高校なんだからちっとは頑張って欲しいけど、、、。
でも今年もやっぱり初戦敗退なのかなあ? 一回くらいは、、、。
グラウンドの隅を曲がってバス通りへ出る。 まだまだ青山君は走っている。
(明日は私も付き合おうかな。) マネージャーだからやることはそんなに無いんだけど。
でも正幸君 格好いい! あんな彼氏欲しいなあ。
ぼんやりしてたら誰かが近付いてきた。 川嶋君だ。
「おー、優紀、あいつが走ってるのをじーーーーーっと見てたのか?」 「ジーーーって程でもないけど。」
「でもお前の顔には応援してますって書いてあるぞ。」 「うっそだあ。」
「ほら、真っ赤になった。 やられてやんの。 ミーハーだなあ。」 「いいの 何だって。」
「まあ、ケガだけはするなよ。」 「するもんですかーーーー!」
でもなんか胸がドキドキする。 まいってるわけじゃないんだけどなあ。
でもなんか不思議。 ドキドキする。
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