あなたが好きだと言いたかった。
その頃、葵ちゃんはやっと周囲の人たちと少しだけ話せるようになってきました。 ケガはすぐに治ったのですが、精神的なショックがひどくて小学校にも通えなかったんです。
お母さんはやっと笑顔が少しだけ戻ってきた葵ちゃんに青山君の話をしました。 「お兄ちゃんね、今日試合に出てるんだよ。」
「そうなの?」 「まだ投げてはいないみたいだけど、、、。」
それでもユニフォームを着ている兄の姿を思い出すと葵ちゃんは勇気が湧いてくるんです。
(お兄ちゃんも頑張ってるんだ。 私も頑張らなきゃ、、、。) そこへ友達が手紙を持ってきました。
『葵ちゃん 元気にしてますか? ぼくらもいつもと変わらず元気です。
先月は遠足でした。 葵ちゃんが居ないから寂しかった。
お兄ちゃんも頑張ってるようですね。 いつかまたみんなで遊びましょう。』
手紙を読み終えた葵ちゃんは机に頬杖をついて窓の外を見ました。
球場ではみんなが必死になってボールを追い掛けています。 2回の表もランナーは出しましたが何とか押さえることが出来たようです。
「去年のあいつらとは何かが違うぞ。」 「そうですねえ。 でも今だけでしょう? 大丈夫ですよ。」
心配している監督と違ってコーチは何も感じていないようです。 さあ2回の裏。
「7番 ライト 梶原君。」 「さあさあ打ち取ってやるぜ!」
坂崎君はまたまた大きく振りかぶって投げてきます。 梶原君は身を逸らして避けました。
「ボール!」 「何だって? 今のがボール?」
坂崎君は信じられないようですが2球目を投げ込んできました。 構えていた梶原君は迷わずに振り抜きました。
「でかいぞ!」 スタンドからも驚いた声が聞こえます。
梶原君は1塁へ走りながらボールの行方を追いました。 「ホームランだ! 回れ! 回れ!」
1塁コーチの宮本君が腕を回します。 そう、ライトフェンスギリギリに飛び込んだんです。
丁寧にベースを踏んでから梶原君はダグアウトに帰ってきました。 「よくやった。 よくやった。」
名志田先生も嬉しそう。 初めて笑顔を見せました。
優紀は、、、というと、腕組みをしている青山君がどうも気になります。
(何を考えてるんだろう?) 分からないなりにスコアブックを見ながら溜息を吐きました。
「8番 センター 中川君。」 「締まっていこうぜ!」
坂崎君もさっきのショックを打ち消すように声を掛けてます。 「中川! ゆったり構えろ!」
その声にドワッと笑い声が起きました。 それに対してニヤリと笑って返す中川君、、、。
「何だ、、、こいつ?」 坂崎君は狐に摘ままれたような顔で1球目を、、、。
「ストライクーーーー!」 「へ、やっぱり打てないじゃないか。」
坂崎君は大きく振りかぶって2球目を胸元へ。 コン!
「え?」 凡フライだと思った坂崎君は慌ててショートを指差しました。
「セーフ!」 1塁塁審の声が聞こえました。
「ちきしょうめ、、、またやられたか。」 ギリギリのタイミングでショートの前にボールを落としたのでした。
「あいつ、なかなかやるなあ。」 名志田先生もその小技に驚いたようです。
「ショートの前に内野安打、、、。」 優紀はスコアブックに書きながらポッとなりました。
「9番 ピッチャー 北村君。」 「ぶっ潰してやる。 覚悟しろよ!」
バットを構えた北村君に向かって坂崎君は、、、。 「ボール!」
「何だって? あのコースがボール?」 信じられない顔で2球目を、、、。
「ボール!」 「緊張してるんだなあ。 やつは、、、。」
北村君は帽子をかぶり直してバットを構えました。 中川君は少しずつリードを取ります。
坂崎君が構えた次の瞬間、、、。 キャッチャーの川崎君がファーストを指差しました。
「それ!」 「セーフ!」
中川君が2塁へ滑り込みました。 それを見た坂崎君は動揺したようです。
北村君はフォアボールで塁に出ました。 「まだまだノーアウトだぜ。 どうする?」
「上の方は打てないやつだって居る。 そいつらを抑えれば、、、。」
「1番 ショート 笠村君。」 「やったるで!」
「おいおい、空回りするな 馬鹿!」 スタンドの応援団も必死です。
何しろ去年は1点も取れなかったチームがこれだけ掻き回してるんですから、、、。 「坂崎ーーーー、抑えろーーーーー!」
おじさんの絶叫に大笑いが、、、。 笠村君まで笑いをこらえていますね。
「釣られるな 馬鹿!」 コーチも気が気ではないようです。
笑いに飲まれてしまった笠村君は三振してしょんぼりと帰ってきました。 「笑い過ぎだよ。 しっかりしろ。」
「すいません。」 (空振り、、、と。)
優紀もみんなを心配しながらスコアブックを書き続けています。
「みんながどのコースに弱いのかスコアを見せてくれ。」 4月のあの日、部室でスコアブックを覗いていた青山君のことを思い出しました。
「次は川崎君ね。 インハイのストレートには気を付けてね。」 とっさに優紀はそうアドバイスを送りました。
「2番 キャッチャー 川崎君。」 「またお前か。 今度はこれだ!」
投げてくるボールはインハイ。 川崎君は気付かないうちに優紀のアドバイスを聞いていました。
「へ。 打てねえじゃん。 この試合も貰ったようなもんだな。」 そう思いながら5球目。
カーン! 「何? 打ちやがった。」
川崎君は1塁へ、、、。 「ライト前だ。 いいぞ川崎!」
その後、富岡君は凡退。 笹井君がバットを持ちました。
「慌てるなよ!」 「狙っていけ!」
「笹井君はカーブに気を付けて。」 優紀はまたまたこそっと耳打ちしました。
坂崎君は余裕を持って投げ込んできますが、、、。 「あれ? こいつ 手を出さねえぞ。」
3球続けてボールになってしまいました。 焦った坂崎君は、、、。
「デッドボール!」 「何だって? お前それでもエースか!」
スタンドも唖然としています。 2死満塁です。
「6番 セカンド 山村君。」 坂崎君は追い詰められた思いで振りかぶりました。
「ボール!」 1球ごとにざわめきが起きます。
(何で? 何でこいつらはこんなに強くなったんだ?) 迷いを掻き消しながら投げたボールは、、、。
コン! ピッチャーとファーストの真ん中に、、、。
取れ 走れ、、、様々な声が飛び交う中で坂崎君も懸命にボールを掴みました。 そしてファーストへ。
2回を終わってダグアウトに戻った坂崎君はボードを見上げました。 「2対0? 取られたのか。」
その頃、青山君の家では、、、。 葵ちゃんがラジオを聞いています。
そう、お兄ちゃんが出るであろう試合が中継されていたんです。 「お兄ちゃんの学校 勝ってるね。」
「そうね。 去年とは違うみたいよ。」 「そうなの?」
「お兄ちゃんが入ったからみんなも変わったのよ きっと。」 「そんなことって有るのかなあ?」
お母さんも食器を洗いながらラジオを聞いています。 実はまだ葵ちゃんは学校へ行けてないんです。
担任の先生も「あれだけのことをやられたんだから精神的に落ち着くまでは無理をしないでください。」 そう言ってました。
それでも時々は家に来ていろんな話をしてくれます。 この頃は勉強も少しずつ教えてくれたりして。
半年後には卒業するんですからね。 それは気になるんですけど、、、。
お母さんはやっと笑顔が少しだけ戻ってきた葵ちゃんに青山君の話をしました。 「お兄ちゃんね、今日試合に出てるんだよ。」
「そうなの?」 「まだ投げてはいないみたいだけど、、、。」
それでもユニフォームを着ている兄の姿を思い出すと葵ちゃんは勇気が湧いてくるんです。
(お兄ちゃんも頑張ってるんだ。 私も頑張らなきゃ、、、。) そこへ友達が手紙を持ってきました。
『葵ちゃん 元気にしてますか? ぼくらもいつもと変わらず元気です。
先月は遠足でした。 葵ちゃんが居ないから寂しかった。
お兄ちゃんも頑張ってるようですね。 いつかまたみんなで遊びましょう。』
手紙を読み終えた葵ちゃんは机に頬杖をついて窓の外を見ました。
球場ではみんなが必死になってボールを追い掛けています。 2回の表もランナーは出しましたが何とか押さえることが出来たようです。
「去年のあいつらとは何かが違うぞ。」 「そうですねえ。 でも今だけでしょう? 大丈夫ですよ。」
心配している監督と違ってコーチは何も感じていないようです。 さあ2回の裏。
「7番 ライト 梶原君。」 「さあさあ打ち取ってやるぜ!」
坂崎君はまたまた大きく振りかぶって投げてきます。 梶原君は身を逸らして避けました。
「ボール!」 「何だって? 今のがボール?」
坂崎君は信じられないようですが2球目を投げ込んできました。 構えていた梶原君は迷わずに振り抜きました。
「でかいぞ!」 スタンドからも驚いた声が聞こえます。
梶原君は1塁へ走りながらボールの行方を追いました。 「ホームランだ! 回れ! 回れ!」
1塁コーチの宮本君が腕を回します。 そう、ライトフェンスギリギリに飛び込んだんです。
丁寧にベースを踏んでから梶原君はダグアウトに帰ってきました。 「よくやった。 よくやった。」
名志田先生も嬉しそう。 初めて笑顔を見せました。
優紀は、、、というと、腕組みをしている青山君がどうも気になります。
(何を考えてるんだろう?) 分からないなりにスコアブックを見ながら溜息を吐きました。
「8番 センター 中川君。」 「締まっていこうぜ!」
坂崎君もさっきのショックを打ち消すように声を掛けてます。 「中川! ゆったり構えろ!」
その声にドワッと笑い声が起きました。 それに対してニヤリと笑って返す中川君、、、。
「何だ、、、こいつ?」 坂崎君は狐に摘ままれたような顔で1球目を、、、。
「ストライクーーーー!」 「へ、やっぱり打てないじゃないか。」
坂崎君は大きく振りかぶって2球目を胸元へ。 コン!
「え?」 凡フライだと思った坂崎君は慌ててショートを指差しました。
「セーフ!」 1塁塁審の声が聞こえました。
「ちきしょうめ、、、またやられたか。」 ギリギリのタイミングでショートの前にボールを落としたのでした。
「あいつ、なかなかやるなあ。」 名志田先生もその小技に驚いたようです。
「ショートの前に内野安打、、、。」 優紀はスコアブックに書きながらポッとなりました。
「9番 ピッチャー 北村君。」 「ぶっ潰してやる。 覚悟しろよ!」
バットを構えた北村君に向かって坂崎君は、、、。 「ボール!」
「何だって? あのコースがボール?」 信じられない顔で2球目を、、、。
「ボール!」 「緊張してるんだなあ。 やつは、、、。」
北村君は帽子をかぶり直してバットを構えました。 中川君は少しずつリードを取ります。
坂崎君が構えた次の瞬間、、、。 キャッチャーの川崎君がファーストを指差しました。
「それ!」 「セーフ!」
中川君が2塁へ滑り込みました。 それを見た坂崎君は動揺したようです。
北村君はフォアボールで塁に出ました。 「まだまだノーアウトだぜ。 どうする?」
「上の方は打てないやつだって居る。 そいつらを抑えれば、、、。」
「1番 ショート 笠村君。」 「やったるで!」
「おいおい、空回りするな 馬鹿!」 スタンドの応援団も必死です。
何しろ去年は1点も取れなかったチームがこれだけ掻き回してるんですから、、、。 「坂崎ーーーー、抑えろーーーーー!」
おじさんの絶叫に大笑いが、、、。 笠村君まで笑いをこらえていますね。
「釣られるな 馬鹿!」 コーチも気が気ではないようです。
笑いに飲まれてしまった笠村君は三振してしょんぼりと帰ってきました。 「笑い過ぎだよ。 しっかりしろ。」
「すいません。」 (空振り、、、と。)
優紀もみんなを心配しながらスコアブックを書き続けています。
「みんながどのコースに弱いのかスコアを見せてくれ。」 4月のあの日、部室でスコアブックを覗いていた青山君のことを思い出しました。
「次は川崎君ね。 インハイのストレートには気を付けてね。」 とっさに優紀はそうアドバイスを送りました。
「2番 キャッチャー 川崎君。」 「またお前か。 今度はこれだ!」
投げてくるボールはインハイ。 川崎君は気付かないうちに優紀のアドバイスを聞いていました。
「へ。 打てねえじゃん。 この試合も貰ったようなもんだな。」 そう思いながら5球目。
カーン! 「何? 打ちやがった。」
川崎君は1塁へ、、、。 「ライト前だ。 いいぞ川崎!」
その後、富岡君は凡退。 笹井君がバットを持ちました。
「慌てるなよ!」 「狙っていけ!」
「笹井君はカーブに気を付けて。」 優紀はまたまたこそっと耳打ちしました。
坂崎君は余裕を持って投げ込んできますが、、、。 「あれ? こいつ 手を出さねえぞ。」
3球続けてボールになってしまいました。 焦った坂崎君は、、、。
「デッドボール!」 「何だって? お前それでもエースか!」
スタンドも唖然としています。 2死満塁です。
「6番 セカンド 山村君。」 坂崎君は追い詰められた思いで振りかぶりました。
「ボール!」 1球ごとにざわめきが起きます。
(何で? 何でこいつらはこんなに強くなったんだ?) 迷いを掻き消しながら投げたボールは、、、。
コン! ピッチャーとファーストの真ん中に、、、。
取れ 走れ、、、様々な声が飛び交う中で坂崎君も懸命にボールを掴みました。 そしてファーストへ。
2回を終わってダグアウトに戻った坂崎君はボードを見上げました。 「2対0? 取られたのか。」
その頃、青山君の家では、、、。 葵ちゃんがラジオを聞いています。
そう、お兄ちゃんが出るであろう試合が中継されていたんです。 「お兄ちゃんの学校 勝ってるね。」
「そうね。 去年とは違うみたいよ。」 「そうなの?」
「お兄ちゃんが入ったからみんなも変わったのよ きっと。」 「そんなことって有るのかなあ?」
お母さんも食器を洗いながらラジオを聞いています。 実はまだ葵ちゃんは学校へ行けてないんです。
担任の先生も「あれだけのことをやられたんだから精神的に落ち着くまでは無理をしないでください。」 そう言ってました。
それでも時々は家に来ていろんな話をしてくれます。 この頃は勉強も少しずつ教えてくれたりして。
半年後には卒業するんですからね。 それは気になるんですけど、、、。