あなたが好きだと言いたかった。

2. 地区大会へ

 もうすぐゴールデンウィーク、、、。
でもでも野球部はそんな暢気なことを言ってられません。 今年も地区大会がやってきたからです。
 「今年こそは一本くらい打ちたいもんだなあ。」 キャプテンだった二村芳樹はバットを振りながら意気込んでいますが、、、。
 「おーい、みんな集まってくれ!」 名志田先生が部員を呼び集めました。
 「今年はなあ、キャプテンを代えようと思うんだ。」 「誰に?」
「青山。 お前がキャプテンだ。」 「え?」
みんなは青山をジロジロと見ていますが、、、。 「適任だろう。 戦い方も知ってるんだ。 任せたぞ。」
「はい。」 「あんちきしょうめ、、、4番だからっていい気になりやがって、、、。」
「佐川、お前にホームランが打てるのか? 打てるなら考えてやってもいいぞ。」 「先生、それは、、、。」
「野球は遊びじゃない。 試合だ。 勝つか負けるか、そこに未来が掛かってくる。 飯事じゃ済まされないんだよ。」
でもまだまだ部員達にはそれが呑み込めないようです。
青山はマネージャーを呼び集めました。 優紀もその一人。
「みんなの特徴を掴んでくれ。 どの球に強くて、どの球に弱いのか。 そして打てない球は何処か。」 「分かりました。」
「これじゃあ、虐めだぜ。」 「嫌なら辞めてもいいんだよ。 代わりはいくらでも居るんだからな。」
そうまで言われてしまってはやるしか無いんですよね。 みんなはその日から思い思いにトレーニングを始めました。
とりわけ青山君は柔軟体操に力を入れているようです。
「おい、青山、、、そんなことやってどうするんだよ?」 「体が柔らかくないと力も出せないんだよ。 柔軟を馬鹿にして肩を壊したプロ野球選手だって居るんだからな。」
そう言いながら彼は黙々と柔軟体操を続けます。 名志田先生はそれを黙って見ています。
他の部員が走り込みをして、汗を流しているのに青山君はただ一人 柔軟に没頭中。
40分ほどしてやっと彼もボールを握りました。 「田野倉君、受けてくれるか?」
「あいよ。」 田野倉がミッドを構えて待っていると、、、。
「投げるコースを支持してくれ。」と青山君。 「え? 俺がやるのか?」
「そうだよ。 キャッチャーは方向指示器なんだ。 アウトかインか指示してくれ。」 「そんなこと、、、。」
「分かった。 田野倉 代われ。」 名志田先生がミッドを持って出てきました。
「よし。 アウトハイから行こう。」 青山君は思い切り振りかぶって投げてきます。
ドーン! 気持ちいいくらいの速球です。 「次は遅い球を投げろ。」
モーションは同じなのに今度は気が抜けるほどの遅い球、、、。 「よしよし。 今度はインローだ。」
ドーン! すごい所に投げてきますねえ。
「川原田、バットを持ってこい。」 そういうわけで3年の川原田君がバットを持って構えました。
「今のコースを投げろ。」 名志田先生はミッドを川原田の太腿ギリギリの所に構えています。
「おい、あれじゃあデッドボールだぜ。」 「あんな所に投げれるのかな?」
トレーニングをしていたみんなが青山君を注目しています。 ドーン!
川原田も思わず仰け反りますが、、、。 「ストライクゾーンいっぱいだ。 いいぞ 青山。」
「今のが?」 「みんないいか。 こうやって相手を脅かすんだ。 ギリギリの所を思い切って攻められるかどうか、それが試されるんだ。」
名志田先生はコーチを集めて何やら作戦会議をしています。
青山君はひとまずボールを置いて走り込みに行きました。 でも見ているとゆっくり走っています。
「あいつ、疲れてんじゃないのか?」 「馬鹿言え。 野球は持久力が命なんだよ。 早けりゃいいってもんじゃないんだ。」
「でも俺たちは、、、。」 「お前、短距離の選手にでもなるのか?」
「そこまで早くないよ。」 「野球はなあ、2時間は掛かるんだぜ。 持久力が無かったら何にもならねえよ。」
 「よし。 青山には試合に向けて肩を作ってもらう。 バッティングピッチャーは、、、そうだなあ、吉田にやってもらおう。」
「俺がバッティングピッチャー?」 「そうだ。 たまは遅いがコントロールはいい。 コースギリギリに投げれるように準備してくれ。」

 それから仮のオーダーを組んで撃たせることに、、、。 「どんどん投げ込んで来い。 特異なコースと苦手なコースをはっきりさせるんだ。」
コーチの山田先生も俄然張り切っているようです。 優紀も彼に呼ばれてバッターを見守ることに、、、。
その頃、青山君は街路を走っていました。 商店街まで来ると見覚えの有る高校生たちが屯しています。
(やつらか、、、。) 彼は軽く手を挙げて走り過ぎていきました。
ところが、、、。 「おい、青山だぜ。 あの一番弱い高校に転向した一匹狼だ。 懲らしめてやろうぜ。」
「やめとけよ。 騒がれたら俺たちは終わりだぜ。」 「構わねえよ。 次来たらボコボコにしてやろうぜ。」
このグループ、実は青山君が以前居た高校の野球部員です。 リーダー格の沢谷和也は青山君ととにかく仲が悪くて、、、。
 青山君はそれでも走り続けています。 再び商店街に戻ってきました。
すると、、、。 突然に彼らが殴り掛かってきました。
「お坊ちゃん 俺たちのことを忘れたわけは無いよなあ?」 「うるさい。 退いてくれ。」
「そうはさせるか! やっちまえ!」 地区大会前のこの時期、事件を起こすわけにはいきません。
青山はやられたい放題にやられて歩道に倒れ込みました。 「少しは思い知ったか? 俺たちを舐めるんじゃねえぞ!」
商店街には人通りも少なくて青山君は顔にまで痣を作ってグラウンドに帰ってきました。
「どうしたんだ? やられたのか?」 みんなが駆け寄ってきましたが、、、。
「いやあ、ちょっと酔っ払いに絡まれちゃったんですよ。」 脇腹を押さえながらなんとか笑って見せる青山君、、、。
優紀はスコアブックを書きながらそんな青山君を遠くから見守っています。 (大丈夫かな?」
部活の終了後も気が気ではないのでそっと青山君に付いていきます。 「どうしたの?」
「ケガ、大丈夫ですか?」 「寝てたら治るよ。 いててて、、、。」
「無理しないで。 病院に、、、。」 「ありがとう。 ひどくなるようなら行くよ。」
「早く行ったほうが、、、。」 「これくらいは、、、いててて。」
「ダメですよ。 行きましょう。」 強がっている青山君を何とか説得して整形外科へ、、、。
「肋骨が折れてますね。 しばらくは安静に、、、。」 先生も心配そう。
「じっとなんかしてられない。 大会も近いんだ。 俺が出れなかったらまともな試合は出来ない。」 「でも先生が、、、。」
「心配してくれてありがとう。 大丈夫だから。」 そう言って優紀と別れた青山君でした。
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