姉の婚約者はワルイ男
「だから、今日と来週は少し長めに一緒にいようね」
「別にいつも通りでいいです」
「なんなら泊っていってもいいよ」
「結構です」
やっぱりかわいい反応なんてできなくて、それでも松葉さんは笑ってかわしてくれる。
素直に「心配だ」と伝えることもできない。
その代わりに、アルバムが置いてある本棚に
ちらりと視線を送ってみる。
「なに、柚葉ちゃん。気になる本でもあった?」
「……全然違います」
もしかしたら、察しのいい松葉さんなら気づいてくれるかもしれない。
そう思ったのも束の間で、わたしの視線がミステリー小説にあるものだと思ったようだ。
どうしたら、このもやもやは取れるんだろう。
初めての感情に、わたしは戸惑うことしかできなかった。