姉の婚約者はワルイ男
「そうだけど。時間とれたから迎えに来た」
「それで拉致られてるんですか、わたし」
「そう」
だったら事前に連絡をくれればよかったのにと思いつつ、言われるがまま車に乗り込んだ。
玄関前には姉が笑顔で手を振って、わたしを見送ってくれていた。
この拉致には姉も絡んでいるような、そんな気がした。
「どうして今日なんですか、松葉さん」
「んー?会いたくなったから」
「明日会えるのに?」
「うん、柚葉ちゃんも会いたかったでしょ」
「……べ、別に」
まさか今日会えるとは思わなかったから、玄関先で会えたとき、少し喜んでしまったのは事実だ。
それをきっと松葉さんも気づいている。
気づいていて、わざと聞いているのがわかる。