姉の婚約者はワルイ男
もうすっかり彼がわたしのことを「ゆず」と呼ぶのも慣れてきた。
わたしは未だに「松葉さん」と呼んでいるのに。
「ちょっと松葉さんに聞きたいことがあって」
「なに、どうしたの」
「今、おじいちゃんに聞いたんです」
「なにを?」
「松葉さんがお姉ちゃんとの婚約話を断ったときのことを」
松葉さんはまさかこのタイミングでバレたと思わなかったのか、反応が悪かった。
彼らしくもない、間が少し空いてから「え!」という声をあげたのだ。
「ひとつ、聞きたいんですけど。松葉さんっていつからわたしのこと好きだったんですか」
いつもあいまいに濁されてきたこと。
松葉さんは大抵のことはなんでも教えてくれるのに、いつ好きになったのかだけはなぜか教えてはくれなかった。
「それ、絶対話さないといけない?」
「知りたいです」
「えー、どうしようかな」
「教えて、絢斗さん」
「……俺の扱いうまくなったよね、ゆず」