姉の婚約者はワルイ男
第12章 あの日あのとき
俺がゆずに出会ったのは、もう3年以上前のことだった。
あの頃の俺は、社長息子という肩書に疲れて、将来は絶対父親のあとを継がなければならないというプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
楽器のことなんて対して知りもしない。
大学で経営の知識は学んだけれど、人の上に立つ覚悟なんて全くできていなかった。
どうして俺は楽器メーカー社長の息子に生まれてきたんだろう。
自分の境遇を何度恨んだかわからない。
半分やけになって、会社を辞めて父親のあとは継がないと公言してしまおうかと思っていたころだった。
ブラブラ外を歩いていると、ふと「芝池ピアノ教室」という大きな看板が目に入った。
楽器なんてなんの興味もなかったのに。
なぜか俺はたまたま目に入った「無料体験受付中」という張り紙が気になり、教室へと足が向いていた。