姉の婚約者はワルイ男



「体験授業の申し込みでしょうか?」


対応してくれたのは、まだ若い女性。

しかも、美人だった。

しかも俺はこの人を知っていると思う。

以前祖父から、芝池さんという古い友人のお孫さんの一人がピアノ教室をしていると聞かされていた。

名前も同じで、きっとこの人のことだとピンときた。


「今、見学とかってできますか」

「もちろんできますよ。こちらにどうぞ」


髪型なんて何もセットしていないボサボサ頭で、だらしないTシャツにジーンズという格好だから、俺のことを知っている人が見ても、俺だとわからないかもしれない。

はたから見たら、不審者に思われても不思議ではないかもしれないのに、あのときのゆずは丁寧に接客をしてくれた。


「どうしてピアノ教室を?」


ただの見学なのに、最初からこんな質問をするなんて変だと思われただろうか。

でも知りたかった。

音楽の……楽器の何がおもしろいのか。


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