姉の婚約者はワルイ男
「松葉さん……どうしてここに?」
ジーパンにTシャツというラフな格好なのに、周りの視線を集めてしまうこの男。
意外と似合うなと思わせてしまうスタイルの良さにも腹が立つ。
「どうしてって休みだしたまには映画でも見ようかなと思ってね」
「……そうなんですね」
「でもラッキーだなあ。偶然キミに会えて。今日は映画デートだね」
「そうですね……って、えええ!?」
「公共の場で声を上げるのはやめようね、柚葉ちゃん」
列が前に進んだタイミングで、わたしの背中を軽く押すこの男はなぜか楽し気に笑う。
しかも、わたしの後ろではなく隣に一緒に並びだした。
「あの、本当に一緒に映画見るつもりですか?」
「当然でしょ。デートなんだから」
「デートじゃありません。変なこと言わないでください」