姉の婚約者はワルイ男



「とぼけないでください。手を離してくださいと言ってるんです」

「いーじゃん。手つなぐくらい。デートなんだから」


ケロリと言い返してくる男に、言い返す気力さえももったいなく感じる。

何を言っても妙な理論で論破されそうだ。


「それに俺の左手はキミにあげるよ」

「意味が分かりません」

「右手はまだあげないけどね」


左手をわたしにくれるだなんて、やっぱりこの男は謎だ。

わけのわからないことばかりで、わたしの心を惑わせる。

やっぱりこういうときは、歩くんに会いたくなる。


「俺の左手はキミのものだから、必要な時に使っていいよ」


こんな臭いセリフを誰にでも言っているのだろうか。

姉の婚約者のくせに。


繋がれた右手をどう外そうかと苦戦していると、いつの間にかチケットの支払いが終えられていて、強制的に隣同士で同じ映画を見ることになっていた。


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