姉の婚約者はワルイ男
「はい、キミの分のチケット」
「ありがとうございます。お金は払いますね」
「いーよ。デートなんだから」
いつまでデートネタを続けるんだろう。
チケットもおごってもらって、手をつないで。
まるで本当に恋人同士で、デートをしているみたいに。
「松葉さんもミュージカル映画とか見るんですね」
「見るのは今回が初めてだけどね」
「え?松葉さんも好きなんじゃないんですか?」
「別にそーいうわけじゃないよ」
「だったらどうしてこの映画を……」
「だって柚葉ちゃん、好きでしょ?こーいう映画」
わたしがミュージカル映画好きだっていうことを知っていたってこと?
わたしは松葉さんに映画の趣味を言ったことあったかな。
昔の記憶を思い起こしてみてもなかなか思い出せない。
すると、突然ふっと笑みがこぼれる音がした。
「なに笑ってるんですか」
「ごめんごめん。ほんとわかりやすいよね、柚葉ちゃん」
「バカにしてます?」
「してないよ、するわけないじゃん。キミが疑問に思ってること教えてあげるね。前に教えてくれたことあったよ、俺にね。キミの好きな映画」
本当にいつ教えたのだろう。
全く記憶にないのも謎が深まるばかりだ。