姉の婚約者はワルイ男
第3章 ワルイ男のウソ
あの日から歩くんとうまく話せなくなった。
いつものように彼の家に来ても、どうしても歩くんと視線を合わせられない。
「柚ちゃんどうしたの?今日様子おかしくない?」
「え?何でもないよ」
「またお姉さんの婚約者の人と会ったの?」
「ううん、そうじゃないよ」
あの男と会った後は、イライラした感情が勝っているけれど、今はそうじゃない。
イライラでもなくて、そわそわした気分でもなくて。
なんて言ったらわからない。
「ごめんね。ちょっと今日は帰らせてもらうね」
「柚ちゃん、大丈夫?具合悪い?送って行こうか?」
「ううん、大丈夫。仕事終わりで疲れてるでしょ?一人で帰れるから」
半ば無理やりだったかもしれない。
こんなことは初めてだった。
気持ちが晴れないまま歩くんの家を出るのは。