姉の婚約者はワルイ男
そんなときだった。
携帯に着信が入ったのは。
「もしもし」
知らない電話番号からだったけれど、とりあえず出たのはピアノの体験授業の希望の電話かもしれないと思ったからだ。
わたしの番号を知っている生徒の親御さんから、習いたいと思っている子供の友達がいるとときどき連絡があることが今までにもあったから。
「もしもし、柚葉ちゃん?」
名前を名乗らなくても、声を聞いただけで誰からの電話かすぐに気づいた。
「松葉さん、どうしてわたしの番号を知ってるんですか?」
一度も連絡先を教えたことなんてない。
姉を経由すればいいと思っていたし、そもそも連絡をすることもないだろうから。
「よく俺だってわかったね。キミ、結構俺のこと好きでしょ」
「……変なことばかり言うなら切りますよ」
「ごめんごめん、ウソ、冗談だって。嫌いだもんね、キミは、俺のこと」
「用事もなさそうなので、やっぱり切りますね」