姉の婚約者はワルイ男
わたしは今、こんな雑談をする気分でもない。
それにこの男からの電話に、機械越しの声に、胸がざわついて落ち着かないんだ。
「切らないでよ、柚葉ちゃん。ところでキミ、今どこにいる?」
「どこって……道を歩いてます」
「うん、外にいるのは知ってる。どこにいるのかって聞いてるんだけど」
「どうしてそれを松葉さんに教えないといけないんですか?」
「んー、俺が知りたいから」
「意味が分かりません」
何のために電話してきたんだ、この男は。
どうしていつもわたしも構うのだろう。
姉だけを見ていればいいのに。
「だからそうじゃなくて……あ、もういいや、見つけたから」
「見つけたって……」
すると1台の普通車がすっと横を通って、一歩手前で停車した。
そして、助手席側の窓が開いて、運転席に座る人物が声をかけてきたのだ。