姉の婚約者はワルイ男
すべてわたしが悪い。
歩くんと同じ気持ちを返せないから。
返せると思ったのに、返せていなかった。
気づくのが遅くて、1年も歩くんに無駄な時間を過ごさせてしまった。
「そんなに自分を責めなくていいよ。付き合うときにだんだん好きになってくれればって言ったのは俺だしね」
歩くんが告白してくれたとき、わたしは一度断っていた。
まだ好きなのか分からなかったから。
でも付き合ったら幸せだろうなと思ったと正直に話すと、「だったら付き合おう。俺のことはだんだん好きになってもらえるように頑張るから」と言った。
それからずっと歩くんはわたしのことをとても大切にしてくれたし、想ってくれていたのに。
「今までありがとう、柚ちゃん」
「ありがとうはわたしの方だよ」
こうして最後に握手をしたとき、歩くんは笑顔だったけれど、きっと傷つけた。
こんないい人傷つけて、わたし———
「柚ちゃん、幸せになって」
別れ際、歩くんがこんなことを言っていた。
こんなに歩くんを傷つけたのに……
わたしが幸せになってもいいのかな。
もうすぐ雨が降りそうな空を見上げながら、わたしはそんなことを考えた。