姉の婚約者はワルイ男
「ゆず、なんて顔して帰って来てんの」
姉の方が帰宅が一足早かったようで、玄関で鉢合わせすると開口一番心配された。
わたしは泣いていい立場にない。
必死に涙をこらえていたから、きっと相当ひどい顔をしていたのだろう。
「別に……なんでもないよ」
「そんな顔されて言われてもねえ。彼氏と何かあったの?」
「……別れた」
姉もきっとこの結果を予想していたのかもしれない。
あまり驚いていなかった。
そうだ。
姉は何も興味なさそうな感じに見えて、わたしのことをいつも気にかけてくれていた。
「なに、ひどい別れ方でもされたの?」
「……ちがう。わたしが別れてって言った」
「あら、そう。やっと自分の気持ちに気づいたのね」
「え?」
「無理に好きになろうと必死だったものね」