姉の婚約者はワルイ男
「だから、服を買いに」
「聞こえなかったんじゃありません。どうして今から服を買いに行くか聞いたんです」
以前からわけのわからない人だとは思っていたけれど、こんなに突拍子もないことを言われたのは初めてなのではと思うくらいの衝撃だった。
「だって柚葉ちゃん、ドレス持ってないでしょ?あ、持ってるかピアノのコンクール用とかの」
「それは持ってますけど、学生の頃のなので今着れるかわからないですよ」
「着れるでしょ。体型変わってないでしょ。太ったりとかなさそうだし」
「まあ、着ようと思えば、ですけどね」
そもそもどうしてドレスなんて……
ドレスを着なければいけないような場所に連れていかれる、とか———?
「でも、まあ、俺が買ってあげたいっていうのが1番だけどね」
「……意味が分からないんですけど。ドレスを今から買いに行ってどうするんですか?」
「まあ、それは行ってからのお楽しみということで」
粘ってみたけれど、結局最後まで教えてはくれなかった。