姉の婚約者はワルイ男
第6章 姉が連れてきたのは
この日は朝から芝池家は慌ただしく過ごしていた。
「柚葉ー、支度できたー?」
「わたしはもう出来てるよー。でも、お父さんがまだ寝巻だけどいいの?」
「えー!?何してるのよ、お父さん!もうすぐ絃葉が彼を連れてくるのに!」
この日は姉が付き合っている彼を両親に紹介する日だ。
もう結婚の約束をしているから、婚約者である松葉さんを連れてくる、という方が正しいか。
「柚葉ー、そろそろ頼んだお寿司来る頃だと思うんだけど」
「わかったー。来たら受け取っておくよ。お金はー?」
「おじいちゃんが払ってくれるって……お父さん!ちょっと早くしてちょうだい!」
家族全員がそろうことはとても久しぶりなのに、全員揃うとこんなに騒がしくなるとは。
尺八奏者の祖父に、ギタリストの父、オペラ歌手の母、ヴァイオリニストの姉。
わたしはピアノの先生をしているけれど、みんなプロの奏者として働いている。
コンサートに駆り出されることも多く、こんな行事がないと全員が集まることはないからとても新鮮だ。