姉の婚約者はワルイ男



祖父のおちゃらけた態度が、再び笑いを生んで、またすこし空気が和んだ気がする。

姉の本当の婚約者である槇原さんは、終始笑顔で姉のことを優しそうな顔でよく見てくれている。

姉が大切にされているようでよかった。


「1度だけ顔合わせしたんです。でも、その時に私たちから婚約はできないと断ったんです。そうですよね、松葉さん?」

「ああ、そうでしたね。あれは2年くらい前のことでしたっけ?」


姉の話を聞いて、思わず姉の顔を見上げてしまった。

そんなに前から槇原さんと付き合っていたなんて知らなかったから。


「そうですそうです。あの頃はもう私も槇原さんとお付き合いしていましたし、それに松葉さんも……ねえ」

「一応確認しますけど、柚葉ちゃんには言ってないですよね?」

「言ってないですよ、私はね」


姉の言葉に裏があると思ったのか、慌ててこの男は祖父の顔を見た。

焦る松葉さんに対して、祖父は何やら楽しそうに笑っている。

祖父だけでなく、両親もだ。

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