姉の婚約者はワルイ男
「あれ、もう帰ってきたんだ」
家に帰ると、その男はまだ家に居座っていた。
まさかわたしが彼の家にいた3時間もの間、この男はこの家にいたのだろうか。
唯一、家にいた祖父を見ると、のんきにその男にお茶のお代わりを注いでいる。
わたしの祖父と松葉さんの祖父が友人同士だったらしく、お互いの孫を婚約者にしてしまうほど仲がいい。
それに、祖父がその友人の孫とこんなに交流を深めているとは、寡黙な祖父からはあまり想像ができないことだった。
「じゃあ、ワシは部屋に戻る。絢斗くんはゆっくりしていきなさい」
そそくさと、立ち上がる祖父の背中に思わず「何がゆっくりしていきなさいよ!」とツッコミたくなる。
そんな祖父に軽く頭を下げたその男は、含みのある笑みを浮かべて振り返った。
「ケンカでもしたの?彼と」
「え?」
「だから、彼氏のところに行ってきたんでしょ?」
この男はすべてを見透かすような瞳をしている。
そんな瞳で見られたら、体が動かなくなってしまうのに。