姉の婚約者はワルイ男
この流れだとてっきり料理上手なこの男が、お腹を空かせたわたしを料理を餌にとどまらせる気なのかと思ったのだけれど。
そこまでではなかったようだ。
「言っておきますけど、わたしもそこまで料理得意じゃないですからね」
実家暮らしで普段はほとんど料理をしないのだから。
芝池家では主に料理ができる母や姉がみんながそろったときに料理を振舞うことが多い。
「じゃあ、一緒に作ろう。それも楽しそうじゃない?」
「いいですけど……まあ、作り方がわかればそれなりのものはできそうですけどね」
「レシピはネットでも簡単に調べられるし、冷蔵庫に入ってるものでできそうな簡単なものを一緒に作っちゃおう」
こうしてわたしたちは一緒に狭いキッチンに並んで料理をすることになった。
この男はこんなことを言いつつ、実は料理ができるのかもと半分思っていたのだけれど、本当に料理はできないようだ。
ほとんど何も入っていない冷蔵庫がすべてを物語っていた。