姉の婚約者はワルイ男



こうして2人でわいわい何かをやるなんてこと今までになかったから、とても新鮮で楽しかった気がする。

思わず笑顔で振り返ってしまうと、この男が息をのんだのがわかった。


すると、そっと顔が下りてきて、唇にやわらかな感触が。

それが、キスだとわかるのに少し時間がかかった。


「こういうことしないって言ったじゃないですか」

「うん、ごめん。しちゃった」


この男は悪びれた様子もなく、しれっと答えた。

それは一瞬の出来事だったようで、とても長い時間にも感じられて。

心臓が大きく波打っているのがわかって、思うように動けなかった。


「顔真っ赤だね、柚葉ちゃん」


そんな反応になるのも無理はない。


だって、わたし、はじめてだったんだよ、松葉さん。

キスするの。


この年でファーストキスがまだだったなんて、思ってもないんだろうな。

「かわいー」とからかってくるこの男には絶対教えてなんてあげない。


今のがわたしの初キスだったんだよって。




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