姉の婚約者はワルイ男
「俺のことからかうから。次やったらもっとすごいことするからね」
そう言って、彼はまた顔を近づけてくるものだから、これ以上は心臓が持たないと慌てて手を一杯前にのばした。
「えっと、えっと……松葉さんの家の本棚って小さいですよね」
不自然なくらいに話題をそらした。
たまたま目に入ったものを言っただけの、適当な話題だった。
それでも彼は笑いながら、答えてくれた。
「まあね。小説が数冊とアルバムくらいしか入ってないから」
「アルバム……ですか」
「見たい?」
好奇心には勝てなくて、少し食い気味にうなづくと、彼はおかしそうに口元を押さえながら、アルバムを1つ手に渡してくれた。
彼が渡したのは、高校生のときのアルバムだ。
「好きに見ていーよ。ちょっと部屋に行ってくる」
そう言って、奥の寝室に消えた彼を待つ間、ペラペラとそのアルバムをめくっていた。