花縁~契約妻は傲慢御曹司に求愛される~
1.ヒロインになれなかった
「どうぞ」


両腕で抱えるほどの大きな花束を差し出される。

断らなくてはと思うのに抗えない。

ふわりと立ち上った甘い香りに、傷だらけの心が少し癒される。


「……泣かないで」


転んで地面に座り込んだ私の前で片膝をつく。

切れ長の綺麗な二重の目が、真っすぐ私を射抜く。


「願いはなに?」


整いすぎた容貌をほんの少し傾けて、骨ばった指で私の涙を拭う。


「……必要と、されたい」


無意識に零れ落ちた、曖昧過ぎる願望を彼は驚きもせずに受け止める。


「契約成立だな……逢花(おうか)がどれだけ必要か体と心に教え込むから」


予想外の展開に、冷静さを取り戻して一気に血の気が引く。


――ダメよ、逃げなければ。


頭の中でもうひとりの私が必死に警告する。


「絶対に傷つけないし、二度と離さない……今夜から俺のものだ」


――絶対なんて、ないのに。
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